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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第3部 大地の章

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月に想いを馳せし者2※R15

いつもお読みいただき、ありがとうございます♪ブクマや評価、感想等、大変励みになっております。


ルーナの付き人ヘンゼルの視点で話が進みます。

読者様によってはご不快な表現や、辛い記憶を想起させる内容となっておりますので、ご注意下さい。ご了承いただけるかただけ、お読みになってください。大変ご迷惑をおかけ致します。

この話を読めずとも、本編はお楽しみいただけます(^^)




 首都グランディスは、貴族街、平民街、貧民街の、概ね三区に別れている。

 貧民街の一角、ウォラーレと呼ばれる区域にある娼館の一つ、『料亭白薔薇』。

 ヘンゼルと妹のグレーテルは、その娼館で住み込みで働いていた。グレーテルは、ヘンゼルよりも十歳ほど下だ。

 ヘンゼルはもうすでに客を取っているが、グレーテルはまだだ。グレーテルは、すでに働いている女性達の手伝いをしている。だが、妹もじきに客をとらされることになるだろう。

 『料亭白薔薇』では、成人になる前に客をとらされる。

 グレーテルは、初めての客が、なんだか白くて弾力のある貴族の男性だったのは覚えている。けれども、それ以外は数も多くて忘れてしまった。

 考えないようにしている、といった方が近いかもしれない。


(せめてグレーテルだけでも……だけど、借金が膨れ上がり過ぎている……)


 元は平民出身の二人だが、父親が博打好きで、大きな借金を抱えていた。母親は色々な貴族の家への奉公へ向かい、仕事をもらっていた。掛け持ちをし、働きづめだった母は、無理がたたって、数年前に亡くなってしまった。その際、ついでとばかりに、父親から二人は娼館へと売られてしまったのだ。


 ヘンゼルは若く、艶やかな黒髪と切れ長の瞳を持ち、とても美しく神秘的な容姿をしていた。男性は頻繁に彼女を買った。そのお陰で『料亭白薔薇』で一番の売り上げをあげるようになる。だが、借金の利子の膨れ上がり方がひどく、働けども働けども一向に減る気配はなかった。


 ヘンゼルは怨めしく呟いた。


「何が神器の加護よ……受けているのは、一部の貴族だけじゃない……」


 彼女は、この国の守護神とやらを信じてはいなかった。




※※※




「最近、グレーテルが平民街の近くまで遊びに行っているらしいわよ」


 共に働いている女性から、グレーテルはそのように教わった。


「平民街に……?」


 平民達は、貧民街に住む者達が、平民街に来るのを嫌う。それは、貧民街の子どもであってもそうだ。

 平民のふりをしても、どうしてか貧民街の者だとばれる。買い物に出掛けたとしても、白い目で見られる。

 時に、平民らが、貧民街の住人へ乱暴狼藉を働くことさえあった。

 この国は一見風光明媚だ。

 だが、実際は、貴族に虐げられた平民達が、貧民街の住民らを虐げるというような、負の連鎖が起こっている。


(グレーテルは大丈夫かしら……?)


 そう言えば先程、グレーテルが何やらいそいそと準備をしていた。

 『料亭白薔薇』は夜しか経営していない。そのため、わりと昼は自由に活動させてもらえる。

 グレーテルが、こっそり娼館の裏口から出ていくところをヘンゼルは目にした。彼女の行き先が気になったヘンゼルは、後を着いていくことにした。




※※※




 グレーテルは、貧民街と平民街の境近くの広場まで歩いていった。

 あまり近くに寄ると、尾行していることが妹にばれてしまう。そのため、ヘンゼルは慎重に距離をとっていた。近くにある壁の裏に隠れる。

 ヘンゼルが耳を澄ます。すると、妹と、もう一人別の少女の笑い声が聞こえた。


「グレーテルったら、面白いわね」


 グレーテルに話しかける少女を、ヘンゼルはこっそり覗いてみる。

 少女は亜麻色の長い髪の持ち主だ。髪は、陽の光りに煌めき、輝きを放つようだ。


「ティエラの方こそ、お話、楽しいです~~」


 妹が少女の名を呼ぶ。少女は、この国の王女と同じ名前をしていた。

 ちょうど王女が生まれた頃、鏡の加護にあやかろうと、娘に『ティエラ』と名付ける親が増えた。彼女の親も、そう言った中の一人だろう。

 それにしても話し方に品がある。彼女は平民ではなく、下手をしたら貴族出身だ。

 グレーテルは、おべっかを使ったりするのはあまり得意ではない。うっかり少女に粗相したりして、妹が悲惨な目に合うのは避けたい。

 ヘンゼルが、彼女達に向かおうと、一歩踏み出した時。



「彼女に何か御用ですか?」



 背後から突然声が聞こえた。

 ヘンゼルの背筋に冷たい汗が流れる。


(いつの間に?!)


 まさか後ろに誰かいるなんて。

 緊張が走る。心臓がうるさい。

 ヘンゼルは、怯えを悟られないよう、声がする方へと振り返った。


 そこには男が立っていた。

 フードを目深に被っているが、そこから銀色の髪が零れ出ている。

 彼の瞳と、ヘンゼルの瞳が出会う。



(蒼い……瞳……)




 月の化身と出会った――。



 ヘンゼルはそう思った。




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