月に想いを馳せし者1
「どうもノワ様が、例の石を使って、何か企んでるみたいですね。あの方、分かりやすいですよね」
執務室に座るルーナに向かい、ウムブラが報告を行う。
彼の隣では、ヘンゼルが黙ったまま話を聞いていた。
「ルーナ様、わざとでしょう?」
「さあ、義兄上のことまでは、私には分かりかねる」
視線をそらしながら、ルーナがウムブラに返答する。白金の睫毛が瞬いた。
そんなルーナを見たウムブラは苦笑する。
ヘンゼルは静かに二人のやりとりを眺めている。
「二人とも、報告はもう良い」
「「分かりました」」
口を揃え、ウムブラとヘンゼルは部屋を後にした。
二人はそのまま、廊下を無言で歩く。
ウムブラは、ヘンゼルをじろじろ見た後に、おもむろに口を開いた。
「ヘンゼル、今日はルーナ様からのお呼び出しがありませんでしたね」
それを受けて、ヘンゼルがウムブラを睨み付けた。
「それが? 貴方、いつも私に何が言いたいの?」
「いえ、私も若い人達と話をしたいなと思いましてね」
「適当なことを言わないで」
ヘンゼルは眉根を寄せる。
ウムブラは嘆息して続けた。
「姫様が不在で、貴女が呼ばれる回数も多いでしょう。今が好機なんじゃないですか? 準備が出来次第、姫様をお迎えに行かれるようだし。そうなれば色々と難しくなりますよ」
ヘンゼルはウムブラを無視して、そのまま歩きだした。
「まあ、貴女とは違って、私はあんなに重い愛は欲しくありませんがね。姫様も可哀想だ」
ウムブラの軽口に、ヘンゼルは釘をさした。
「不敬ではなくて?」
そう言って、ウムブラを置いて廊下を進んだ。
ヘンゼルは、自分が城に仕えるようになった頃のことを思い出した――。




