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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第3部 大地の章

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第80話 竜の生け贄

いつも皆様、お読みくださりありがとうございます♪

本日もどうぞよろしくお願いいたします。




 口付けあっていたティエラとソルだったが――。



「あの……」



 突然、二人は裏口から声をかけられた。


(え――!?)


 慌ててティエラはソルの身体から離れる。

 二人が後ろを振り返ると、そこに立っていたのは修道女モニカだった。

 ちょっとだけ戸惑った様子で、彼女は口を開く。


「お二人にお話をと思い……窓からちょうど姿を拝見しましたので、急いで出てきてしまい……何も確認せず、大変申し訳なく……」


 モニカはおずおずと、ティエラとソルに謝罪してきた。


「い、いえ! モニカさん、何もお気になさらず!」


 顔を真っ赤にしながら、ティエラはモニカに返事をする。


「――それで、話ってのは?」


 ソルはと言うと、わりと平然としていた。

 ティエラとソルとの温度差が違う。


(なんだか……私ばっかり気にしすぎてるような……)


 モニカは、そんなティエラをちらりと見た後、ソルへと返した。


「大公プラティエス様がよく、『ティエラが成人する前にどうにかしなければ』と仰っていたことを思い出しまして……」


 ソルは黙って彼女の話に耳を傾けているようだ。

 ティエラも黙ってモニカの話を聞いた。


「シルワ様も成人される直前に、城をお出になりました。もしかしたら、ティエラ様に何か関係があるかもと……」


 ソルは、顎に指をそえながら考えごとを始める。


(顎に指を添えながら考えるのは、ソルの癖みたいね)


「ティエラの成人までに、か……シルワ姫も生け贄になるのが嫌で逃げたみたいに話していたな」


「生け贄……?」 


 モニカが、誰とはなしに問いかけた。



「神器で封印されている竜の……でしょうか?」



 ティエラは黄金の瞳を見開いた。


(私が竜の生け贄……?)

 

 ルーナから説明されていたことを、彼女は漠然と思い出しはじめる。


 オルビス・クラシオン王国は、「神器によって竜から護られている国」だと言う話を――。


 ソルが、モニカの問いに答えた。


「そう考えるのが妥当だろうな。他に生け贄を欲しがりそうなやつが思い至らない。だが……一応、俺は神剣の使い手である『剣の守護者』にあたるが、そんな話は聞いたことがない」


 ソルはぽつりと続けた。


「いや……親父が……わざと俺に伝えてないのか……?」


 彼の碧の瞳がかげる。

 

 ソルの隣で、ティエラは動揺していた。


「シルワ姫が成人する頃、竜の生け贄になりかけたということ……? それで、ヘリオスさんと二人で逃げたの? 王家の姫である私も、生け贄と関係が……?」


「まあ、そう断定するには早すぎる。しっかり調べよう」


 ティエラは頭をぽんぽんとソルから叩かれる。 


(ソル……)


 少しだけティエラの不安が和らいだ。


「それで、話は変わりますが……」


 モニカがまた、言いにくそうに切り出す。


「ティエラ様の叔母君であるフロース様から、お二人に『大公プラティエス様と石の話をせよ』と、手紙が来てはいたのですが……あとは、姫様が記憶を失っているとも……」


 モニカは続けた。


「それで、その……お二人は、シルワ様達のような間柄なのでしょうか? 姫様には確か、婚約者のルーナ様が――」


 咄嗟にティエラが叫ぶ。


「き、記憶が戻るんですよ!」


 そう聞いて、モニカはきょとんとしている。


「――記憶が!」


 モニカは合点が行ったという風で、ティエラに語りかける。


「『竜が叫びし時、剣は鏡へと力を与えん』ですわね。剣の神器は、神話通りの力を持つのでしょう」


 そう言われ、ティエラはソルを見た。


「知ってる? ソル?」


「俺は古典が、大の苦手なんだ」


 ソルはバツが悪そうにしている。


(そういえば、ソル、古典が苦手だったかも……)


 ティエラとソルに向かって、モニカはにっこりと笑った。


「……そういうことにしておきますわね。それでは――」


 そう言って、彼女は建物の中へと消えていく。

 ソルがティエラに声をかけた。


「俺達も部屋に戻るか」


 ティエラは頷く。


 裏口に戻ろうとする際――。


 ソルが、ティエラに一度だけ軽く口づけてきた。


「ひゃっ――」


 突然の事で、ティエラは驚いてしまう。


 ソルは微笑むだけだ。


(ううっ――ソルは口付け慣れしている――)


 とは言え、それは記憶を失う前のティエラが相手なのだが――。


 彼女はまた首まで赤くなってしまう。


 そうして二人は部屋に戻っていく――。


 朧気な月が、地平へと傾き始めていた。




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