第78話 偽の神器
「それは……」
ティエラは黄金の瞳を見開いた。
修道女モニカのはだけた胸に埋まった光り輝く石。
それは――王都グランディスの塔の上で見た宝玉にそっくりだったのだ。
視線を外していたはずのソルも驚いて、石に視線が釘付けになっている。
グレーテルは相も変わらず、アルクダとごちゃごちゃやっていた。
「驚かれましたか? 宝玉によく似ているでしょう?」
モニカに問われ、ティエラは黙って頷いた。
(神器の贋作が作られることがあるって、ルーナから聞いていたけれど……あれは実話だったのか……)
「おかしい……」
ソルが唸る。
(なにがおかしいのかしら?)
ティエラは気になって、紅い髪の騎士ソルを見上げた。
「神器の贋作は、確かによく市中を出回ることがある。だが――」
顎に指を当て、ソルは何か考えているようだ。
しばらくすると、彼はモニカに向き合った。
「――そんな風に魔力を蓄えたりはしない」
「そうなんですか~~?」
グレーテルがアルクダの目を隠したまま、ティエラとソルの間にぐいっと割り込んできた。
グレーテルには魔力が分からないようだ。
「見えませんけど……なんかほんのり魔力を感じますね」
糸目を隠されたアルクダが淡々と話す。
(アルクダさんは、魔力を探知しているようね)
モニカはそっと衿元を閉じた。
ティエラはモニカに声をかける。
「その石は、大公であるプラティエス叔父様が作ったんですか?」
「ええ、そうです。王族である鏡の一族の今後のためにと、よく仰っていました。それがなぜ、神器の偽物作りにつながったのかまでは……私には理由は分かりませんでしたが……」
モニカが続ける。
「これを身体に埋めこめば、魔力のない者でも魔力が使えるようになります。ただし……」
今まですらすらと話していたモニカが言い淀んだ。
「――魔力の代わりに命を喰らうってとこか」
ソルがいつもの調子で告げる。
彼に目を向けられ、モニカは視線を反らした。
それは、肯定の意味だととって良いだろう。
「他に、魔術を実行するための供給源が分からないからな」
(命を……)
ティエラの背中が冷たくなった。
「そうなると、数年前に大公のプラティエス様が亡くなっているが……あの方は国王様と違って、お身体は健康でいらした。一応不慮の事故ということにはなってはいたが……実際は違う可能性が出てきたな……」
まだアルクダの目を手で隠したままのグレーテルが、ソルに向かって訴える。
「え~~グレーテル、とってもこわいんですけど~~」
(グレーテルが怖がっているようには見えないわね……)
「まだグレーテルさん、目を開けちゃダメなんですか~~?」
(アルクダさんは、なんだかんだで、グレーテルに目を塞がれて嬉しそう……)
ソルはため息をついた。
「結局、大公様が偽神器を作った目的は解らずじまいか……鏡の一族のためという発言と、シルワ姫の言ってた生け贄。この二つに関連はあるかもしれないな」
「ええ、そうね」
ティエラが同意した。
ソルがまた、モニカに問いかける。
「モニカさん、他には何か心当たりは?」
彼女は首を横に振った。
(鏡の一族と生け贄の関連はわからなかったけれど――)
ティエラは、モニカの話を聞き、少しだけ先が見えてきたような気がしている。
「ノワ様は、明日の朝また来ると仰っていました。それまでは、こちらで休んでくださっても大丈夫だと思います」
くたびれていた四人は、モニカの厚意を受けとることにする。
彼らは、教会に併設されていた孤児院の一室で身体を休ませることになったのだった――。




