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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第3部 大地の章

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第77話 モニカが知る秘密




 「私が知っていることをお話ししましょう」


 修道女モニカの榛色の瞳が、執務室にある蝋燭の炎で揺らめいた。

 ティエラは、ごくりと唾を飲み込む。

 モニカが、ゆっくりと話はじめた。


「まだ大公プラティエス様がご存命の頃……私と私の妹が大公様にお仕えしていた頃の話になります……」


 大公プラティエスの話が出たため、ティエラは思い出そうとした。だが、名前しか思い出すことは叶わなかった。

 本来の彼女ならば、モニカとその妹という人物も知っているのかもしれない。


「大公殿下は、とても家族愛の強いお方でした。兄君である国王様と妹君であるシルワ様のことを、そして後からお生まれになられたティエラ様のことも、とても大事にしていらっしゃいました」


 そう言われ、叔父である大公を思い出せない自分に、ティエラは少しだけ悲しくなった。


「シルワ様がヘリオス様と共に、城を出てお亡くなりになられたことはご存知でしょうか?」


 ティエラはそれに対して頷いた。

 それを確認したモニカは、さらに話を続けた。


「大公様は妹のシルワ様を深く愛されていたので、その件でしばらくふさぎ込んでおられました」


 モニカは俯き、胸に手を当てた。

 彼女は当時を思い出し、プラティエスに思いを馳せているのかもしれない。


「それ以来、魔術師だった大公殿下は、とある魔術の研究に没頭されるようになりました」


 ティエラが、紅い髪の護衛騎士ソルをちらりとみる。

 彼が少しだけモニカの話の補足をしてくれた。


「大公プラティエス様は、非常に魔力の強いお方で有名だった。色々な研究結果を残しておいでで、王国の発展に多く寄与されている。フロース様もそうだが、少し変わり者で有名だったよ」


 それを聞いたモニカがくすりと笑った。

 彼女は笑うと頬にえくぼができて可愛らしい印象が強まる。


「そうでしたわね、剣の守護者様。プラティエス様は少々というか、かなりの変わり者で有名でしたものね」

 

 ティエラはモニカに質問してみた。


「その『魔術』というのが、今回の山賊が魔術を使えた件と、関係があるということですか?」


 地下水道を出てからの道中、グレーテルからティエラが教わったことなのだが、通常魔力がない者は魔術が使用できないそうだ。魔力がある者でも、魔術に関する理論を学んでおかなければ、行使することもままならないという。

 にもかかわらず、ウルブ城を襲った山賊は魔術を使っていた……。


「ティエラ様」


 突然、モニカが修道服の袂を緩め始めた。


「アルクダさん! 見ちゃダメです~~」


 グレーテルが叫びながら、アルクダに目隠しをする。

 ティエラはちらりとソルを見てしまった。


(ソルはモニカさんからは視線を外しているわね)


 なぜか、ティエラは少しだけ安心する。


「こちらをご覧いただけますか?」


 ティエラがモニカの方へと視線を移す。

 モニカの白い肌が顕わになっていた。

 蝋燭の炎が、怪しげに彼女を照らしている。

 そして、何かが彼女の胸元できらりと煌めいた。

 やや暗い室内のため、ティエラは眼を凝らす。


「これが、プラティエス様がおこなっていた研究でございます」


 彼女の柔肌の上で、玉の神器によく似た石が、ゆらゆらと揺らめいていたのだった。




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