第77話 モニカが知る秘密
「私が知っていることをお話ししましょう」
修道女モニカの榛色の瞳が、執務室にある蝋燭の炎で揺らめいた。
ティエラは、ごくりと唾を飲み込む。
モニカが、ゆっくりと話はじめた。
「まだ大公プラティエス様がご存命の頃……私と私の妹が大公様にお仕えしていた頃の話になります……」
大公プラティエスの話が出たため、ティエラは思い出そうとした。だが、名前しか思い出すことは叶わなかった。
本来の彼女ならば、モニカとその妹という人物も知っているのかもしれない。
「大公殿下は、とても家族愛の強いお方でした。兄君である国王様と妹君であるシルワ様のことを、そして後からお生まれになられたティエラ様のことも、とても大事にしていらっしゃいました」
そう言われ、叔父である大公を思い出せない自分に、ティエラは少しだけ悲しくなった。
「シルワ様がヘリオス様と共に、城を出てお亡くなりになられたことはご存知でしょうか?」
ティエラはそれに対して頷いた。
それを確認したモニカは、さらに話を続けた。
「大公様は妹のシルワ様を深く愛されていたので、その件でしばらくふさぎ込んでおられました」
モニカは俯き、胸に手を当てた。
彼女は当時を思い出し、プラティエスに思いを馳せているのかもしれない。
「それ以来、魔術師だった大公殿下は、とある魔術の研究に没頭されるようになりました」
ティエラが、紅い髪の護衛騎士ソルをちらりとみる。
彼が少しだけモニカの話の補足をしてくれた。
「大公プラティエス様は、非常に魔力の強いお方で有名だった。色々な研究結果を残しておいでで、王国の発展に多く寄与されている。フロース様もそうだが、少し変わり者で有名だったよ」
それを聞いたモニカがくすりと笑った。
彼女は笑うと頬にえくぼができて可愛らしい印象が強まる。
「そうでしたわね、剣の守護者様。プラティエス様は少々というか、かなりの変わり者で有名でしたものね」
ティエラはモニカに質問してみた。
「その『魔術』というのが、今回の山賊が魔術を使えた件と、関係があるということですか?」
地下水道を出てからの道中、グレーテルからティエラが教わったことなのだが、通常魔力がない者は魔術が使用できないそうだ。魔力がある者でも、魔術に関する理論を学んでおかなければ、行使することもままならないという。
にもかかわらず、ウルブ城を襲った山賊は魔術を使っていた……。
「ティエラ様」
突然、モニカが修道服の袂を緩め始めた。
「アルクダさん! 見ちゃダメです~~」
グレーテルが叫びながら、アルクダに目隠しをする。
ティエラはちらりとソルを見てしまった。
(ソルはモニカさんからは視線を外しているわね)
なぜか、ティエラは少しだけ安心する。
「こちらをご覧いただけますか?」
ティエラがモニカの方へと視線を移す。
モニカの白い肌が顕わになっていた。
蝋燭の炎が、怪しげに彼女を照らしている。
そして、何かが彼女の胸元できらりと煌めいた。
やや暗い室内のため、ティエラは眼を凝らす。
「これが、プラティエス様がおこなっていた研究でございます」
彼女の柔肌の上で、玉の神器によく似た石が、ゆらゆらと揺らめいていたのだった。




