月の咆哮 1※R15
ルーナの過去
白金の髪に蒼い瞳をした、中性的な顔立ちの青年ルーナ・セレーネは、オルビス・クラシオン王国の王女ティエラ姫の婚約者だ。
その月の化身と言われる程の美しさだけではなく、溢れんばかりの知性に、秀でた武芸、どれをとっても完璧に近い男性である。
玉の一族の分家の身でありながらも、玉の守護者に選ばれたほどの才能の持ち主だ。
国で神として奉られている『初代・玉の守護者』に容姿も酷似している。
そのため、彼の生まれ変わりなのではないかと、国民達から噂が出る程だった。
そんなルーナだが、生家での扱いは決して良いものではなかった。
※※※
ルーナの父親は、フェガリ・セレーネと言う。
フェガリは、当時の玉の守護者の三人いる子の内の一人だった。
フェガリは玉の一族という事もあり、幼少期から物質的には満たされて生きてきていた。
だが彼は、他の兄弟三人とは違い、落ちこぼれとして評判であった。それを払い除けるだけの負けん気があれば良かったのだが、そううまくはいかない。
お前はダメな人間だと周囲から言われ続け、そこから身動きがとれずに過ごす。何を頑張っても兄弟達とは違い、評価がされない。
祖父シリウス・セレーネと祖母スピカは彼を可愛がったが、やがては二人とも亡くなってしまった。
誰の支えもないフェガリが大人になると、自然に酒や女に溺れていった。
だが、フェガリはある時、生まれて初めて、誰かに評価されるようになる。
それが、自分の息子ルーナの存在だった。
落ちこぼれとは言え、フェガリは玉の一族の子息だ。そこそこ良い家柄の貴族の女性を彼は娶ることが出来た。
その貴族の女性とフェガリとの間に生まれたのが、ルーナだったのだ。
ルーナは幼少期より、見目も麗しいことを始め、非常に高い魔力と才能を持っていた。
周囲は、ルーナの事を褒め称えた。
それをフェガリは、自分の評価だと錯覚するようになっていく。
彼は、まるでルーナを自分の所有物のように扱い始めていった。
ルーナの母親は、ルーナが三歳頃に亡くなってしまっており、フェガリのルーナの扱いはより一層ひどくなった。
どこの国でもそうかもしれないが、貴族の中には変わった趣味の者も多い。小さい子どもを敬愛する者は少なからず存在する。
フェガリはそう言った貴族達に、男女問わずにルーナを引き合わせ、彼等から弱味と金を引き出すようになっていった。
ルーナはまだ幼く、自分の置かれている状況を理解できてはいなかった。父親のためになるならと、それなりに受け入れていた。
上手に振る舞えないと、父親から罵声を浴びせられる。母親を亡くしていたルーナは、父親の関心を引こうと必死だった。
しかし、聡いルーナは、しばらくして自分の扱いが他の子ども達とは違うことに気づく。そして、次第に自分の事を責めるようになっていった。
そんなルーナだが、未来の玉の守護者として、本家に養子に向かうこととなった。
フェガリは大金と引き換えに、ルーナを手放した。
最後までフェガリは、ルーナ本人をみることはなかった。
養子になり、もしかしたら新しい自分として生きれるかもしれない。
そうルーナは期待したが、彼の思った通りにはならなかった。
本家の大人達も、結局はルーナを自分達は都合よく扱った。
養父である前・玉の守護者も、フェガリと同じように貴族らにルーナを引き合わせた。
養母は、夫が不在の時にはルーナを部屋に呼んだ。
彼等の向ける視線が、ルーナは非常に気持ち悪く感じていた。
だが、彼にはどうすることも出来なかった。
それ以上に、自分が汚らわしい存在だと思うようになっていった。
ルーナが成人近くになるまで、そんな日々は続いていった。
※※※
そんなある日のこと――。
ルーナは養父から呼び出され、こう告げられた。
「お前のティエラ姫様との婚約が決まった」
幼いティエラ姫との出会い。
それにより、ルーナの人生は大きく変わっていくこととなるーー。




