第76話 モニカ
「どうぞこちらへ」
修道女モニカは教会の中へと、ティエラ達四人を案内した。
敷地内に入ってすぐに聖堂が見える。建物の前には、この国を創始したと言われている、神器の守護者達の像が三体飾られていた。
聖堂の中では、様々な人達が横になったり、椅子に座ったりして過ごしている。何らかの理由で金や家を失ったり、身寄りがなくなってしまった人達だそうだ。
案内中のモニカが、ティエラ達に簡単に説明してくれた。
聖堂の奥にある扉を抜けると廊下がみえる。
その廊下をさらに進んだ先の部屋へと、ティエラ達は案内された。
「ここは、私の部屋になります」
どうやらモニカの執務室らしい。
部屋はきれいに整理されており、彼女の几帳面さがうかがえた。
「フロース様から手紙をいただいていましたので、いらっしゃるだろうと思っていました」
ティエラに向き直り、モニカが深々と頭を下げる。
「ティエラ様、このような教会に遠路はるばる、お疲れでしょう。さあ、椅子に座ってくださいまし」
そんなモニカを見て、ティエラは慌てた。
「モニカさん、そんなに丁寧じゃなくても大丈夫ですよ!」
「いえいえ、私の耳にも国王様急死のお話がきております。現在、王位継承者第一位はティエラ様にございます。次期女王である貴女様に無礼な発言はできかねます」
そうモニカに言われて、ティエラ達ははっとする。
「国王様急死」
モニカが、はっきりとそう告げたからだ。
ソルが彼女に向かって尋ねる。
「モニカさん、国王様急死の理由については何かご存知ですか?」
ソルの口調が丁寧なものになった。
普段が無礼な言動であることもあり、ティエラは今の彼の話し方に慣れることが出来ない。
グレーテルに至っては、ソルの今の話し口調を聞いてくすくす笑ってさえいた。
アルクダはそんなソルに慣れているのか、あまり気にした様子はなさそうだ。
モニカは、ソルに答える。
「理由については、持病の悪化によるものとうかがっております」
それを聞いて、ティエラは少しだけ安堵した。
(ソルがお父様を殺したようには、噂で広まっていないようね)
実際には、ルーナが国王暗殺の首謀者である可能性が高い。
神器の守護の件もある。
剣の守護者ソルが暗殺者だと知らせた場合、国民の不安が高まるだろう。
(国の上層部にのみ「ソルが暗殺した」というように吹聴して、下々には伝わらないように口止めしているのかもしれないわね……)
「あとは……ノワ様が本日この教会にいらして、私に伝言を残して去って行かれました」
四人はそれぞれ、モニカの方を見た。
「『他言は無用だが、剣の守護者が姫様を連れ去ってしまった。この教会をたずねてくる可能性が高い。彼らが来次第、連絡するように』と」
「ノワが……! ルーナの入れ知恵か?」
ソルの呟きに、グレーテルとアルクダが口々に賛同していた。
「モニカさんは……私達を宰相ノワに引き渡すのでしょうか?」
ティエラは改まり、モニカに問いかける。
モニカは丸い眼を大きく見開いた。
「いえ、私はそのようなことは致しません。教会の運営の問題もあり、玉の一族様に協力することは多いですが……」
少しだけ、憂いを帯びた表情でモニカは答えた。
ティエラは彼女の答えを聞いて安堵するとともに、モニカの切なげな表情が気になる。
続いてソルが、モニカに対して尋ねた。
「フロース様から聞いていらっしゃるとは思いますが、先日、賊がウルブ城に侵入し、魔力を持たない者が魔力を使うという事案がありました。このことについて、フロース様が貴方に尋ねよとおっしゃっていました」
ソルの話を受けて、モニカは伏し目がちになる。
ゆっくりと彼女は口を開いた。
「それは……亡くなった大公プラティエス・オルビス・クラシオン様にまつわる話にございます……」
亡くなった大公プラティエスとは、暗殺された国王の弟だ。
フロースの夫であり、ティエラの叔父に当たる人物でもある。
モニカの口からプラティエスの名が出て来たので、ティエラは驚いていた。
「私達姉妹は、プラティエス様がご存命の折、彼のお世話係として働いておりました」
『私達』と話すということは、モニカには姉か妹がいるのだろう。
(あれ? プラティエス叔父様に仕えていた……?)
「その当時の話と関係がございます。お聞きになられますか?」
そう問われたティエラは一瞬戸惑った。
だが、すぐに――。
「お願いします」
ティエラはモニカに向かって力強く告げる。
モニカは、ティエラを見て、ゆっくりと頷いた。
「わかりました。私が知ることをティエラ姫様にお伝えいたします」
モニカは覚悟を決めたように、ティエラへと自分の知る事を話し始めた。
皆様、いつもお読みくださってありがとうございます。
次回は少し、番外編を掲載しようかなと思います。
いつも突然入れてしまうので、今回は先に言っておこうと思います。
どうぞよろしくお願いします。




