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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第3部 大地の章

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第76話 モニカ

 


「どうぞこちらへ」


 修道女モニカは教会の中へと、ティエラ達四人を案内した。

 敷地内に入ってすぐに聖堂が見える。建物の前には、この国を創始したと言われている、神器の守護者達の像が三体飾られていた。 

 聖堂の中では、様々な人達が横になったり、椅子に座ったりして過ごしている。何らかの理由で金や家を失ったり、身寄りがなくなってしまった人達だそうだ。

 案内中のモニカが、ティエラ達に簡単に説明してくれた。

 聖堂の奥にある扉を抜けると廊下がみえる。

 その廊下をさらに進んだ先の部屋へと、ティエラ達は案内された。


「ここは、私の部屋になります」


 どうやらモニカの執務室らしい。

 部屋はきれいに整理されており、彼女の几帳面さがうかがえた。


「フロース様から手紙をいただいていましたので、いらっしゃるだろうと思っていました」


 ティエラに向き直り、モニカが深々と頭を下げる。


「ティエラ様、このような教会に遠路はるばる、お疲れでしょう。さあ、椅子に座ってくださいまし」


 そんなモニカを見て、ティエラは慌てた。


「モニカさん、そんなに丁寧じゃなくても大丈夫ですよ!」


「いえいえ、私の耳にも国王様急死のお話がきております。現在、王位継承者第一位はティエラ様にございます。次期女王である貴女様に無礼な発言はできかねます」


 そうモニカに言われて、ティエラ達ははっとする。


「国王様急死」


 モニカが、はっきりとそう告げたからだ。

 ソルが彼女に向かって尋ねる。


「モニカさん、国王様急死の理由については何かご存知ですか?」


 ソルの口調が丁寧なものになった。

 普段が無礼な言動であることもあり、ティエラは今の彼の話し方に慣れることが出来ない。

 グレーテルに至っては、ソルの今の話し口調を聞いてくすくす笑ってさえいた。

 アルクダはそんなソルに慣れているのか、あまり気にした様子はなさそうだ。

 モニカは、ソルに答える。


「理由については、持病の悪化によるものとうかがっております」


 それを聞いて、ティエラは少しだけ安堵した。


(ソルがお父様を殺したようには、噂で広まっていないようね)


 実際には、ルーナが国王暗殺の首謀者である可能性が高い。

 神器の守護の件もある。

 剣の守護者ソルが暗殺者だと知らせた場合、国民の不安が高まるだろう。


(国の上層部にのみ「ソルが暗殺した」というように吹聴して、下々には伝わらないように口止めしているのかもしれないわね……)


「あとは……ノワ様が本日この教会にいらして、私に伝言を残して去って行かれました」


 四人はそれぞれ、モニカの方を見た。


「『他言は無用だが、剣の守護者が姫様を連れ去ってしまった。この教会をたずねてくる可能性が高い。彼らが来次第、連絡するように』と」


「ノワが……! ルーナの入れ知恵か?」


 ソルの呟きに、グレーテルとアルクダが口々に賛同していた。


「モニカさんは……私達を宰相ノワに引き渡すのでしょうか?」


 ティエラは改まり、モニカに問いかける。

 モニカは丸い眼を大きく見開いた。


「いえ、私はそのようなことは致しません。教会の運営の問題もあり、玉の一族様に協力することは多いですが……」


 少しだけ、憂いを帯びた表情でモニカは答えた。

 ティエラは彼女の答えを聞いて安堵するとともに、モニカの切なげな表情が気になる。

 続いてソルが、モニカに対して尋ねた。


「フロース様から聞いていらっしゃるとは思いますが、先日、賊がウルブ城に侵入し、魔力を持たない者が魔力を使うという事案がありました。このことについて、フロース様が貴方に尋ねよとおっしゃっていました」


 ソルの話を受けて、モニカは伏し目がちになる。


 ゆっくりと彼女は口を開いた。


「それは……亡くなった大公プラティエス・オルビス・クラシオン様にまつわる話にございます……」


 亡くなった大公プラティエスとは、暗殺された国王の弟だ。

 フロースの夫であり、ティエラの叔父に当たる人物でもある。

 モニカの口からプラティエスの名が出て来たので、ティエラは驚いていた。


「私達姉妹は、プラティエス様がご存命の折、彼のお世話係として働いておりました」


 『私達』と話すということは、モニカには姉か妹がいるのだろう。


(あれ? プラティエス叔父様に仕えていた……?)


「その当時の話と関係がございます。お聞きになられますか?」


 そう問われたティエラは一瞬戸惑った。


 だが、すぐに――。


「お願いします」


 ティエラはモニカに向かって力強く告げる。


 モニカは、ティエラを見て、ゆっくりと頷いた。



「わかりました。私が知ることをティエラ姫様にお伝えいたします」



 モニカは覚悟を決めたように、ティエラへと自分の知る事を話し始めた。

 







皆様、いつもお読みくださってありがとうございます。

次回は少し、番外編を掲載しようかなと思います。

いつも突然入れてしまうので、今回は先に言っておこうと思います。

どうぞよろしくお願いします。

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