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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第3部 大地の章

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第72話 記憶を取り戻すきっかけ



 ティエラは眼を覚ました。

 気付いたら、洞窟の中の一室に備え付けられた簡易ベッドの上で横になっていた。


(ソルが寝かせてくれたのかしら?)


「ごめんなさい、ソル。私、寝てたみたい」


「別にいい」


 ソルにそう言われ、ティエラは安堵した。

 彼女はゆっくりと身体を起こす。


(ソルといると、とても落ち着くわ……時々 どきどきすることも、もちろんあるけど……)


 そんなことを考えながら、ティエラが簡易ベッドから降りようとした時――。


 ぞくりとした感覚が、彼女の背筋を襲う。

 気付けば、彼女の意識は頭の奥へと追いやられていた。



 憑依――。



 「ティエラではない別の誰か」が、ティエラの身体を使って話しはじめる。



「私の子どもはどこ? 貴方は知らない?」



 身体を借りて話していたのは、若い女性だった。


 ティエラの身体を借りた誰かに、平然としたソルが返す。


「俺は、あんたの子どもについては知らない」


 ソルがそう言うと、彼女はがっかりとした様子をみせた。


「大公様に言われて、私は……」


「大公……?」



 ティエラの身体がぐらつく――。


 彼女の身体をソルが慌てて支えた。


「ソル……今のは……」


 ティエラが口を開く。


 紛れもなく、正真正銘のティエラ本人だった。


 シルワ姫の時とは違い、ティエラの中に入ってきた誰かはすぐに姿を消したようだ。


 身体の動かなくなったティエラを再びベッドへと、ソルが横たえる。


「大公って言ってたな……いつの時代の大公だろうな……」


「私の叔父様なのか、ご先祖様なのか……」


 おそらく鏡の一族の中に、ウルブを統治していた大公は何人もいるだろう。


 最後に統治に当たっていた大公――。


 プラティエス・オルビス・クラシオンは、数年前に亡くなったという。彼は、ティエラの叔父であり、フロースの夫に当たる人物になる。


(おじさまかどうかは分からないわね……)


 ソルをしっかり見ようと、ティエラは身体の位置をずらそうとしたのだが――。


「ごめんなさい、ソル……また私、身体が動かなくなって……」


「あんた、気にしすぎだ。前からよくあっただろ? って、忘れちまってるか?」


 少しだけ寂しそうにソルは笑んだ。


(断片的に思い出した記憶の中にもあったような気がする……)


「そうだったかな……?」


 ティエラはまだ少しだけ、ぼんやりしていた。


 そう言えば――。


 気になっていたことを、ティエラはソルに尋ねた。


「……私が記憶を取り戻すきっかけに、ソルは気付いてるみたいだったわね……」


「……は? ああ、まあな……」


 やや歯切れの悪いソルの返答に、ティエラは少しだけ引っ掛りを覚える。

 身体に力が入らない彼女は、ソルに視線だけ向けて尋ねた。


「それって、なあに? 教えてほしいわ」


「――勘違いかもしれないぞ」


「え? きっかけについて知ってるなら、近い状況とか、行動を試したいのだけど……?」


 ソルはため息をついた。

 彼は頭を抱えはじめる。


(いったいどうしたの、ソルったら……?)


「ねえ、教えてくれる? ソル……」


 自身の護衛騎士を、潤んだ黄金の瞳で見上げながらティエラは懇願した。 

 逡巡したソルは、しかし――。


「……分かった」


 彼女の頼みに弱い彼は、しぶしぶ同意したのだった。


 そうして、記憶を取り戻すきっかけについて、ソルがティエラに教えてくれたのだが――。


 話を聞いたティエラは――。


「え……!? え? 本当に……!?」


 思い当たる節があるとともに、恥ずかしさで彼女は顔を赤くしてしまった。


「共通したのが、それしかない。まあ、俺の勘違いの可能性もある。あんたが試すかどうかは、俺の判断だけでは出来ない……」


 ソルが顔をそむけた。


(記憶が戻るのなら、試してみたい気持ちが――)



 ――ふと、彼女の脳裏にルーナの顔が浮かんだ。



(今更かもしれない――だけど、こんな中途半端な状態で――)



 試すのを辞めておいた方が良いだろうか――?



(ソルとは恋人同士だった――だけど、ルーナとの婚約は成立したまま――)



 しばらく悩み、ティエラは答えを出す。



「ソル、それなら……」



 ティエラは、ソルにどうしてほしいかを口にした。





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