第71話 地下水路にて
夜中眠れずに書いてみました。
ちょっと穏やかな回です。
ウルブの城の地下水路にて――。
フロースが教えてくれた後、ティエラとソル、グレーテルにアルクダの四人で、隠し扉を通った。
そのはずだったのだが――。
「ソル、グレーテルとアルクダさんは無事かしら……?」
「は? ああ……あいつらなら、適当にやってるだろ」
――なぜか今、ティエラはソルと二人で、水路を歩いていた。
地下水路の中は真っ暗だった。
そのため、落ちていた松明にソルが魔術で火を点けて、周囲を照らしながら歩いていた。
どうやら、この地下水路は昔からあるようだ。じめじめとしていて、ところどころ苔がむしている。汚水が流れているため、匂いもきつい。
時々、ネズミなどの動物が肥大化し魔物になったものが出る。
それらをソルが神剣で倒しながら進んでいっていた。
※※※
ちなみに、二人になった経緯はこうだ――。
「いや~~ん、匂いがきついです~~。グレーテルの髪に匂いがついちゃいます~~。もう無理です~~」
地下水路の匂いに圧倒されたグレーテルは嘆いていた。
そのわりに、魔物などが出てくると、嬉々として彼女は敵に短剣を投げつける。
ソルもそうだが、彼女も戦闘が好きなようだった。
糸目の男アルクダはというと――。
ソルとグレーテルが倒した魔物から、何か金目の物がないか、彼はごそごそと探っていた。
「アルクダさん、何をやっているんですか?」
ティエラが問うと、気だるげな調子で答えてくれる。
「魔物は体内にいいものを時々持ってるんで、もったいないんですよ」
どうもアルクダは、ちゃっかりした性格のようだった。
しばらく四人で歩いていると、ひときわ大きな犬が変形した魔物が出現する。
「グレーテル、いきま~~す」
魔物を見て気分が高揚したグレーテルが、勢いよく魔物に走りかかった。
魔物の首を、彼女が短刀で切り裂く。
その勢いのまま空中で回転したグレーテルが地面に着地しようとした――。
その時――。
地下道路の足場がガラガラと崩れた――。
「いや~~ん!!!」
グレーテルの足場が崩れた事に気付いたアルクダが駆ける。
「グレーテルさん!」
いつものアルクダからは想像がつかない程動きが速く、ティエラは驚化された。
そして――。
「きゃ〜〜〜〜っ!」
「わ〜〜〜〜っ!」
そのまま地下道路のさらに下の道へと、二人は落ちていったのだった。
「あいつらは……」
ソルがぼやく。
かろうじて下の階からグレーテルとアルクダの声は聞こえた。
どうやら二人に怪我はなかったようだ。
結局、二手に別れ、後から四人で合流することになったのだった――。
※※※
ソルとティエラの二人はは、暗い足場を歩いていた。
彼の松明を持っていない方の腕に、彼女はしがみつくようにして歩む。
「ねえ、ソル……あの二人、本当に大丈夫なの?」
そう問うと、またため息をついたソルが返答した。
「いつもあんなんだから、大丈夫だって」
(いつものやれやれと言った調子ね……あまり気にしない方が良いのかもしれない)
二人が歩いている途中、水路の脇に部屋のようなものがあった――。
部屋の中に入ると、簡易的な寝台も備えてあるうえに、特殊な魔力が働いているのか魔物も近付かず、汚水から離れているため匂いも少ない。
(非常時のために確保された場所かしら?)
部屋で二人は一旦休むことにした。
松明をソルが壁にかけると、部屋全体がほんのりと明るくなる。
二人して寝台に腰かけた。
「あんた、疲れたろ?」
「うん……ちょっと疲れちゃったかな?」
今朝、村を出てから怒濤の連続だった。
ティエラの疲労は限界に近い。
「ちょうど部屋があったし、俺が外の方見てるから、あんたは休んでろよ」
そう言われたティエラは、少し甘えることにした。
ソルの肩へと、彼女は頭を置いてもたれかかった。
「――あんた、横にならなくて良いか?」
「うん……こっちの方が落ち着くから」
「――そうか」
そうして、ティエラはソルに寄りかかる。
段々と、彼女はうとうとしはじめる。
「相変わらず、無防備だな」
微睡みの中で、ソルの穏やかな声がティエラの耳に届いたのだった。




