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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第3部 大地の章

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第70話 ティエラの決断




「どうするのじゃ、ティエラよ」



 血の繋がらない叔母フロース問いかけられて、ティエラは言葉に詰まる。


「城に戻れば、また狐に幽閉されるやも知れぬが、命は保障されるだろう。だが、剣の小僧と一緒のままではお主の命が危ないぞ」


 フロースの話に、女騎士アリスが問いかけた。


「フロース様。差し出がましいのですが、ルーナ様が国王様を殺した可能性が高いのでしょう? でしたら、姫様が首都へ戻るのは危ないのでは?」


「そうですよ~~」


 メイドのグレーテルも、アリスに賛同する。


「そうかのう? ティエラを殺すなら、小僧が城から出てすぐに殺しておるはずじゃ。じゃが、ティエラは軟禁だけじゃったようだ……。それに、あの狐はティエラのことを怖いぐらいに溺愛しておる……まあ、父親殺しの犯人と添い遂げるのも、恐ろしいと言われれば恐ろしいがの」


 ティエラはその話を聞いて戸惑った。

 即位や婚礼などもある。

 だから漠然と、いつかは城に戻るのだろうとしか考えていなかった。


 宝玉の力を使い、記憶を取り戻そうとして塔に行った。

 だが、元々ティエラは城の外に出るつもりはなかったのだ。



 けれども――。



「城に戻った方が安全かもしれない。お父様を殺したのはルーナかもしれないし、私を利用しようと彼はしたのかもしれない。だけど、私に対しては彼は優しかったわ」


 ティエラは、フロースを真っ直ぐに見た。


「でも、罪もないソルに濡れ衣を着せたまま、真実が何も分からないまま過ごすのは嫌なの」



 そうして、ティエラは続ける。



「私は――国のために、父のために、ソルやルーナのために……何より、私自身のために、真実にたどりついてみせる」




 今までの彼女になかった意思が、ティエラの瞳に宿っていた。




「そうか……じゃあノワへの引き渡しはなしじゃな」


 フロースはため息をついた。

 でも、少しだけ微笑んでいるようだった。

 意外そうな瞳をしながら、アリスはティエラを見ていた。

 グレーテルはにこにこしており、アルクダは胃を抑えている。


 ティエラ達に向かって、フロースが告げた。


「わらわに着いてくるのじゃ」


 そう言って、執務室の脇にある扉へ向かう。

 どうやら、続き部屋になっていたようだ。向かった部屋には、寝台などが設置してあった。

 その部屋の、さらに奥にあるクローゼットをフロース開く。

 吊るされた衣服を退けると、さらに扉があった。

 フロースが手を当てると、その扉が自然に開く。


 扉の奥には、地下へと続く階段が現れた。


「ここを抜ければ、城から出れる」


 アルクダとグレーテルはお喋りしながら中に入っていった。


「こんなのあるんですね」


「すごいです~~」


 しかし、すぐに中には入らなかったソルは、フロースに話しかけた。


「待て。まだ山賊達が魔術を使えた理由が分かっていない……フロース様は何か心当たりがあるんだろ?」


「ないとは言えぬ……だが、説明する時間がない。エスパシオにある教会にいる、モニカという修道女を訪ねよ。あれは信頼できる」


「そうか」


「手紙か何かを出しておこう。既にエスパシオにも、お前達の手配はされておろうがな……」


 フロースはティエラに歩みより、姪である彼女を抱き締めた。


「ティエラよ、匿えずにすまない。だが、お前が納得しないままに幽閉されるのは、私も好かぬ……気が済むまで頑張るのじゃぞ」


 ティエラは瞳を潤ませる。



「はい」



 ティエラを抱き締めたまま、フロースはソルに問いかける。



「小僧、お主は覚悟を決めたかえ?」



「……俺も、決めないとな」



 フロースと離れたティエラが、地下へと向かおうとする。それにソルも着いていこうとしたが、彼は伝言を思い出した。

 ソルはフロースに向き直る。



「俺たちは、死んだシルワ姫の霊魂と会った」



 ソルの言葉に、フロースが息を呑んだ。



「『フロースに伝えてくれ、私は幸せだった』だそうだ」



 ソルが言うと――フロースは目を見開いた。


「それじゃあな」



※※※



 そう言って去っていくティエラとソル。

 フロースは二人を見て、シルワ姫とヘリオスを思い出した。



 シルワ姫は死んでしまって不幸だとばかり思っていたのに――。



 フロースの瞳から、涙が溢れてきた。


 彼女は二人の背に向かい、ぽつりと呟いた。



「もしもお前達が覚悟を決めたのなら、わらわも覚悟を決めないといけないかもしれんな」



 フロースは地下へと続く扉をまた封印した。

 彼女の背中を、アリスがそっと支えていた。







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― 新着の感想 ―
[良い点] 物語の流れがスムーズだったと思います。 [一言] 遅くなりまして申し訳ありません。
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