第69話 決断の時
「予定もないのに現れおって……! あのバカが……!」
宰相ノワの突然の来訪に対して、女領主フロースは怒りを顕にする。
「すぐには対応出来んと言うて、しばらく待たせておけ!」
応答した騎士は、すぐに部屋から出ていった。
フロースは頭を抱える。
「またですか、ノワ様は……」
女騎士アリスがぼやいた。
(そういえば……フロース叔母様のところにノワ・セレーネがよく訪ねているって、ニンブス村の麓のおばさんが言ってたわね……)
村での会話をティエラは思い出す。
「やはり――山賊らに『力』を渡したのは――」
フロースは、さらに悩んでいるようだ。
「は~~い、グレーテル! 壁の外で、ノワ様のとこの執事さんとさっきの山賊さん達が、お話してるの見ました~~! ね、アルクダさん」
「そうなんですよ……、その時、紅い髪の男がどうとかって言ってたから、僕たちそいつらの跡を追うことにしたんです。ですよね~~グレーテルさん」
「お前たち、それは本当か?」
グレーテル、アルクダ、アリスが順に話した。
「は~~い。それで後をつけたら、お城の辺りをうろうろしてたので、グレーテル達はお城に入るために色々頑張ったんですよ~~」
「ね~~」
「そうか――情報感謝するぞえ、お前達」
グレーテルとアルクダに対し、フロースは感謝を述べた。
(いまいち状況が理解できない……)
「今日の昼に、派手にやり過ぎたか?」
ソルが呟く。
フロースがそれに反応した。
「小僧、どうせお前のことじゃ、山賊達に絡まれてど派手にやったんじゃろ?」
「そうかもな」
ソルの返答に、フロースが頭を横に振る。
「おそらく、狐の放った斥候か何かが、お前らと山賊達が闘うのを見ていたんじゃろう。それでバカ……ノワがそれを聞き、山賊達をけしかけたというところかの……」
フロースの話に、ティエラは疑問を抱いた。
「いくら私達に気付いたからって、フロース叔母様のお城の中に賊を侵入させるなんて、やりすぎなんじゃ……」
ティエラの疑問に、ソルが答えた。
「警告だろ」
彼の答えを、フロースが拾う。
「小僧の言う通りじゃ。旦那様が亡くなって、わらわはこの領地をそのまま守らせてもらっておる。だが、玉の一族に支援を受けているからこそ、なんとかなっておるのじゃ」
「それじゃあ、フロース叔母様……」
「わらわがお前達を城の中に招き入れたのを知った上で、お前達を庇い立てするようなら、支援はしないぞ、という脅しじゃろうて」
フロースがため息をついた。
女性の身の上でありながら、ウルブの都の統治を、彼女は任されている。ただ、元々の王族でない上に女だと、フロースが領主であることを反対する者もいるのだろう。
「ティエラ、お前はどうしたい? 前向きに捉えればじゃが……ノワにお前を引き渡しさえすれば、お前は自分の城に戻れるとも言える……。お前に自由はないかもしれんが……」
フロースから、ティエラは問いかけられる。
また、後ろから扉を叩く音が聞こえた。
「フロース様、『まだか?』と城の外でノワ様が騒いでおりまして……」
入室した騎士が、フロースに報告する。
彼女はしばし思案する――。
「もう引き留めるのは無理か――分かった、ノワを城に入れろ」
フロースは騎士に命じた。
アルクダとグレーテルは顔を見合わせている。
ソルの手を、ティエラはぎゅっと握った。
「どうするのじゃ、ティエラよ」
ティエラに決断の時が迫っていた。




