第68話 国王暗殺の謎3
ティエラは、ソルの話を黙って聞いていた――。
血濡れたレイピアを持つルーナを、ソルは見たらしい。
それは――国王暗殺の真の首謀者がルーナであるということを示唆している。
(ルーナ――!)
ティエラは優しかった父の事を思い出していた。
胸がぎゅっとなり、苦しくなる。
記憶を失ったまま城にいた頃のことを、ティエラは思い出していた。
鏡を通じてソルと会話をした頃から、ルーナが何かを隠しているとは感じていた。
ルーナの言動からも、何かがおかしいとは思っていた。
『――何か記憶が戻られたのですか?』
(おかしいとは分かっていたのに……)
けれども、首謀者がルーナだとは考えないようとしていた。
別に誰か犯人がいるかもしれないと、自分を思い込ませて……真実を知るために塔に向かったのに――。
思い悩むティエラの様子を気にかけながら、ソルは話を続けた。
「気付いたら、姉貴がいるデウスの都まで、アルクダとグレーテルに連れられていた。宝玉につけられた傷があるせいで、なかなか身体が治るのに時間もかかった。新月じゃないと宝玉の力が弱まらないからそれまで待って、ティエラを迎えに行った――」
ティエラの耳許で「デウスの都は首都グランディスの東にあるんですよ~」と、そばに立っていたグレーテルが囁いてくる。
「お前が迎えに行かずとも、あの狐なら、ティエラに害を及ぼすようなことはせんように思うが……お主、ティエラに余計なことをしたのではないかえ?」
悠然と、フロースがソルに問いかけた。
彼女の眼は面白がっているようにみえる。
ソルは息を吐く。
「そこに、ティエラの意思があったのなら――な」
隣にいるティエラの方へと、ソルは顔を向ける。
俯いていた彼女は顔を上げた。
ソルの碧の瞳と彼女は出会う。
ティエラの手を彼がとった。
「俺はあんたに、迎えに来いと言われていた。それに――」
ソルの眼差しの真剣さに、ティエラの心が囚われる。
「必ず帰ると、約束しているから」
彼女の胸がどきりと跳ねた。それと同時に、嬉しいような穏やかなような――なんとも形容しがたい気持ちを抱く。
ソルとティエラはしばらく見つめあっていた――。
彼らを見たグレーテルは「ソル様、なんか攻めてますね~~」と囃し立て、アルクダは「なんか胃がきりきりしていた」と呟く。
アリスは二人を黙って見ていた。
気を取り直してソルが続ける。
「まあ、迎えに行ったのには他にも理由はある。まず、竜の封印も心配だった……まあ、数ヶ月程度なら大丈夫だろうが――。次に、国王様が亡くなったなら、ティエラの即位も近い。神器が三つ揃ってない状態での即位は、俺には推奨できなかった」
「まあ――それは我々も心配しておったことじゃな」
フロースに向き直ったソルは、話を続ける。
「三つ目は――なぜルーナがこんなことをしたのか、理由が分からなくて得体がしれなかったからだ」
フロースが扇で、自身の顔を煽っている。
ソルは続けた。
「あいつは別に国王様を殺さずとも、ティエラの夫になれたんだ。実質、権力としても王と変わらない力を持つことにもなった……殺す理由にはならないはずだ。だからよく分からない」
「――あの狐はお前を嫌っていた。ティエラのそばに居るお前を排除するためなら、何でもやりかねんぞ」
フロースはソルに答えた。
「それも考えはしたが――国王陛下を殺す理由にはならない」
しばらく皆に沈黙が流れる。
「生け贄……」
ぽつりとティエラが呟いた。
「生け贄と関係があるのかしら? シルワ姫がそう言ってたわよね」
ソルに向かってティエラが尋ねる。
「そうだったな」
「生け贄……? シルワ……姫……?」
それらの単語に反応したフロースが、眉をぴくりと上げた。
彼女が口を開きかけた時――。
――ドアを叩く音がし、騎士が一礼して入室してきた。
「申し上げます、フロース様。城の外に、玉の一族当主ノワ・セレーネ様がいらっしゃっております」
玉の一族の当主が、城が襲われてすぐに現れた。
それが意味するところは――。
「想像より早かったか……!」
フロースが歯噛みする。
ティエラとソル達にも、緊張が走ったのだった――。
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