第67話 国王暗殺の謎2
謁見の間には、血を流して倒れている国王陛下の姿があった。
そして、宝物庫に通じる回廊の途中――。
床に倒れたティエラを、血濡れの剣を持ったルーナが見下ろしていた。
「な……!」
こちらを振り返るルーナの表情だけでは、彼が何を感じているのか、ソルにはうかがうことが出来なかった。
いつもは柔らかいルーナの蒼い瞳に宿る光は鈍く、氷のように冷たい。
彼の白金の髪は、血に濡れて怪しく光る。
(国王陛下の元にも急ぎたい――遠目から見ても、刺し傷の数と出血量が多い。このままでは間違いなく助からない。早急に誰か呼ばないと――)
だが――。
ルーナとティエラから目を離すことも、ソルには出来ずにいた。
ルーナに向かってソルは叫ぶ。
「どうして? 何があった? お前が陛下に何かしたっていうのか!?」
ルーナはゆっくりと目蓋を閉じた。
「答える義理はない」
「なんで? 違うなら否定しろ!」
感情的にソルは捲し立てる。
「お前も同じ守護者のはずだが――本当に何も知らない。知っていたら、姫様と悠長に過ごせるわけがないか――」
「な――」
ルーナは含みのある言い方をした。
だが、国王を刺したのかどうかの答えとは言えず、ソルの苛立ちが増す。
倒れていたティエラが、頭を上げようとしている――。
その姿を、ソルは視界の端で捉えた。
(良かった――ティエラは生きてるな)
安堵したソルは、ルーナと対峙する。
「じゃあ、国王様は、お前が殺ったって解釈して良いんだな――?」
ルーナは、首を縦には振らない。
それを、ソルは肯定だと捉えた。
彼は激昂し、ルーナに駆け寄る。
神剣を振り上げると、ルーナへ叩きつけるようにして斬りかかった。
だが――。
「相変わらず、直情的だな」
ソルの剣は、ルーナのレイピアで軽くいなされてしまう。
直後――。
ルーナが連続で、氷の魔術を撃ち込んでくる。
気付けば、氷でソルの足元は縫い付けられてしまっていた――。
彼はその場から動けなくなる。
「お前には、国王暗殺の首謀者になってもらう」
氷で動けなくなったソルに、ルーナがにこやかに告げた。
「なっ……?!」
即座に、神剣に宿る炎で、ソルは氷を溶かそうとする。
しかし直ぐ様、ルーナがソルに雷の低級魔術を撃ち込んで来る。
氷を溶かすことが、ソルには叶わない。
「正直私は、姫様のそばにいるお前を殺してしまいたい……」
ルーナが憂いを帯びた表情になる。
「だが、お前と神剣は必要だ……」
ルーナはソルにゆっくりと近づくと――。
ソルの左肩にレイピアの刃が深々と貫く。
「お前を牢に入れている間は、私が姫様を護っておくよ――」
ソルの肩から、ルーナが刃先を引き抜く。
ソルは呻いた。
肉が削げ、逆流した血が吹き出し、ソルの髪をより紅く染め上げる。
「――だからお前は、安心して寝ておけ」
ソルはそのまま膝から崩れた。
足元の氷に向かって、彼の身体が傾ぐ。
「ティエラ……」
自分を呼ぶ二つの声がどこかで聞こえていた。
だが、それに答えることは出来ず、そのままソルの意識は遠退いていったのだった――。




