第65話 これからのこと
山賊たちに襲われた後すぐ――。
フロースから「話が終わり次第、城から出ていってもらう」と、ティエラ達は告げられた。
当初は客室も用意されていた。だが、この城に泊まることは難しいに違いない。
現在、窓ガラスなどが割れた部屋では話がしづらいということで、ティエラ達はフロースの執務室に移動していた。
「姫様~~グレーテル、感激です~~」
部屋を移動している最中、しきりにティエラへとグレーテルが喋りかけていた。むしろ、ティエラの腕にグレーテルはぎゅっと抱きついている。
元々ティエラのお世話係をしていたという彼女は、大層喜んでいる。
ティエラとソル、先程合流したグレーテルとアルクダの四人は、アリスに案内されて執務室へと入室した。
執務室では、フロースが待ち構えている。
「すまないな、ティエラ。お主だけでもかくまう予定だったのだが……」
開口一番、フロースはティエラに謝った。
フロースが目を伏せると、長い睫毛が彼女の瞳に陰を作る。
彼女は話を続けた。
「今しがたの騒ぎの件もじゃが……まずは、途中だった話から再開しようかのう――ティエラ、お前はどこまで記憶が戻っておる?」
ティエラは答える。
「私は、五歳ぐらまでは……最近のことはまだ曖昧だけど、ソルとのこととか、グレーテルにアルクダさん、アリスさんの名前やどういう人か……そういう身近なことはなんとなく思い出してきたみたい」
彼女は思案する。
「馬車の中よりも、思い出したことが増えているみたいなの……思い出したきっかけは分からないんだけど……」
そう話すティエラの隣で、ソルが大きなため息をついた。
彼の姿をフロースは目敏く見つける。
「心当たりが小僧にはあるようだの?」
フロースの問いに対し、ソルは曖昧に答えた。
「心当たりがあるにはある――かな――」
「教えてはやらんのか? あれの魔力を相殺出来るのは、お前ぐらいなもんだろうからな――」
ソルを見ながら、フロースがにやりと笑う。
ティエラは彼の方を見て問いかけた。
「ソル、気付いてるの? なら……」
「――あんたには、後から話す――」
ソルがティエラから、顔を背けた。
フロースは、にやにやと笑っている。
(ソル、どうしたのかしら? それにフロースおばさまも……)
話題は別のものに変わった。
「して、小僧よ――ティエラが記憶を失ってから、お主はどこぞにおった? なぜ城からお前は追い出され、ティエラは幽閉される身となった?」
ソルはフロースに向き直る。
「俺は、あの日もティエラの護衛をしていました――」
ソルは一応余所行きの喋り方をしていた。
フロースが片眉を上げる。
「やめい、お前の下手な敬語など聞きとうない」
ソルは、今日何度目かのため息をついた。
「……分かったよ――あの日も、ティエラの護衛を俺はしていた」
ソルは、国王が暗殺された日のことを思い出していた――。




