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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第3部 大地の章

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第63話 ウルブの城での攻防




「あんた、しっかり掴まってろよ」


 ティエラを抱きかかえたソルが、彼女にそう言うが早いか――。


 ――部屋に、一人の男が侵入してきた――。


 頭が禿げ上がりひょろりとしたその男は、手に刀を持っており、ティエラとソルに向かって狙いを定めている。


(見たところ、盗賊に見えるけれど……)


 扉の向こう側には、倒れた騎士の姿があった。


「いたぞ! 紅い髪の男だ!!」


 ひょろりとした男は、ソルを見ると歓喜の声をあげる。


 思わず、ティエラは声を荒げた。


「なんで城の中に……? それに、この人……」


(見たことがあるような……?)



「ティエラ、黙ってろ! 舌噛むぞ!」



 襲いかかってきた男の刃を、ソルの刃が受ける。


 ――刃身がぶつかり合う音が部屋に鳴り響いた――。


 そのまま、ソルが相手の刃を押し返す。

 細長い見た目の敵だったが、想像よりも力が強いようだった。


 ソルが剣の柄で、男の頭を叩く。


 そのまま、男は体勢を崩した。


 いつもなら、そこで勝負はついているはずだった。


 だがーー。



 ーー男はゆらりと立ち上がり、ソルを見据えた。


「どうしてなの……?」


 ソルも一瞬少しだけ驚いている様子だったが、男に向き直り叫ぶ。


「ちったぁ、歯応えあるやつがいるじゃねぇか!」


 緊迫した状況の中だが、ソルはどことなく喜んでいる様子だ。

 闘いになると途端に気分が高揚して、彼は好戦的になる。


 目の前の男がソルに再び襲いかかってきており、また撃ち合いが始まったーー。




※※※




 ひょろりとした男に、ソルが勝利をおさめた。


 その後も、次々と部屋の中に男達が流れ込んでくる。


(ソル……もう三十人近く倒したかしら……?)


 広い部屋のあちらこちらに、倒れた男達が折り重なって倒れていた。


 ソルの肩から、ティエラは降ろされる。


(ソルの息が上がってる……)


 彼の額からは汗が流れ落ちていた。


(普通の騎士が同じ状況なら、私も心配はしない……)


 だが、ソルに限って言えば――。


(こんなに体力を消耗しているソルを見ることは、今までなかったのに――)


 ティエラの婚約者であるルーナをのぞいては、いつだっとソルが圧勝していた。


 それなのに、今日の彼は明らかにいつもより疲弊している。


(これまでとは、何かが違う……)


 ティエラの胸に不安がよぎる。


 ソルとティエラの近くに影が射した。


 ――現れたのは体格の良い男だ。



「なんか見覚えあると思ったら、あんたかよ」



 目の前にいたのは髭面の大男――今までにソルが二回程闘い、軽くあしらわれていた山賊の男だった。


 ティエラはソルの背に庇われる。



「紅髪の騎士! 今日こそはお前を倒す!」



「三下の台詞吐きやがって――」



 疲れているにも関わらず、ソルは相手を挑発するようなことを言う。

 彼が神剣を構え直した、その時――。



 ――突然、目の前で光が爆発した。



 その光の正体。



 それはーー。



(ーー光の魔術)



 そう、目の前にいた大男が、光の魔術を使用したのだ。


(魔力を持っていたのに隠していたの? いえ、持っていたのなら、これまで二回あったソルとの戦闘で使用しなかったのはおかしい――)


 それに――。


(この男の人は、詠唱していなかった……)


 詠唱なしで魔術が使える人物など、この国では限られているはずだ。


 少なくとも、ティエラが思い出した記憶の範囲ではだが――。



「なんで魔力がないはずのお前が、魔術を使えている!?」


 ソルが大男に問いかけると、大男はニヤリと笑った。


「ある方にいただいたんだよ……」


「ある方? ……いただいた?」


 ソル達に向かって、再び大男は光の魔術を放つ。


 光を、ソルは神剣の刀身で弾いた――。


 しばらく、ソルと大男の攻防が続く――。



 ティエラは後方で、二人が闘う様子をみていた――。


 大男が拳を振り上げ、持っていたナイフでソルに襲いかかる。

 ソルがそれを避けると、男は再度光を繰り出した。


「ソル! そいつは魔術を使うぞ!」


 ――扉の向こうから、アリスの声が聞こえる。

 アリスが「騎士道に反するが」と言いながら、剣で大男の背側から挑みかかった。


「そんなの、見りゃあ分かるよ!」


 アリスの攻撃により、大男に隙ができる。

 その機を逃さずにソルが男の内側に入り、男の腹を蹴り飛ばした。

 そのまま、男は壁に激突し、動かなくなる。


 アリスは、部屋に入ると乱れた呼吸を整えながら、ソルに話しかけた。


「すまない。賊が多すぎて、なかなか部屋に戻れなかった……ソル、ほとんどお前が倒したようだな……おそらくはこの男で最後だ」


「アリス、一体どうなってやがる? こんなに城の中に賊が入るとかあり得ないぞ? ――フロース様は?」


 ソルとアリスが話しているのを、ティエラは眺めていた。


(アリスさんは、ソルの助けになっていたわ……だけど私は――)


 ティエラはソルに守られてばかりだ。


 むしろ今回の闘いでも、ソルの体力を減らす一因になっていた。


(憑依されやすい体質のことと良い、何も出来ないばかりか、私には足手まといになるような要素ばかり……)


 考えていたティエラの視界の端で、何かが閃く――。


 倒れていた男がゆっくりと頭をもたげる。


 その様子が、ティエラの視界の端に映った――。


 彼は、何か手に持っている。


「ソル!」


 思わずティエラは、ソルの名を呼んだ。


 彼女に向かって、男が隠し持っていたナイフを放つ。


 ティエラは腕で顔を多い、目を瞑る。


 ――刃が肉をつんざく音が部屋の中に響いた。



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