第61話 ティエラとソルの関係3
5/31ソルの台詞と、ティエラの心理描写を追加しました。
「ルーナ殿」
城の廊下を歩いていたルーナは、背後から低い声に呼び止められた。
彼が振り返ると、紅い髪にところどころ白い髪が混ざった男が立っていた。
男は、髪と同じように白髪が混ざる髭を蓄えていた。騎士団の衣服を身に纏っており、その襟元には騎士団長を顕す記章を付けていた。
ルーナを見てくる鋭い碧の眼は、彼が嫌うあの男を思い出させた。
それもそうだろう。この男の名はイリョス・ソラーレと言う。剣の一族の現当主であり、ソルの実の父親だ。
剣の守護者としての力は、現在ソルに全て移行している。そのため、騎士団の管理としての仕事を任されており、実働はしていない。
「イリョス様、どうなさいましたか?」
ルーナはゆったりと、騎士団長に問いかけた。
騎士団長は、険しい表情を崩さない。
「愚息が姫様を拐かしたという件について、貴方に話がある」
※※※
唇を求めあった後、どちらともなく離れた。
ティエラは、ソルにしがみつく。彼からも抱き寄せられた。
彼女の胸の奥が疼く。
そう、自分たちはただの幼馴染同士ではなかった。
ただの姫と護衛騎士と言う間柄でもなかった。
でも、それ以上はどうすることもできずにいた。
自分たちの関係を、ティエラはソルと口づけている間にぼんやりとだが思い出していた。
ソルは、ティエラの目の前でいつものようにため息をついた。
少しだけ二人の身体が離れる。
「あんたが、泣きそうだったから、つい……」
ソルは髪をかきあげると、再度ため息をついた。
「ったく、やっちまった。俺の苦労は何だったんだ」
そう言う彼をみて、ティエラは少しだけ笑顔になった。
「そこまで言う程、苦労してたようにはみえなかったんだけど」
「言われてみれば、自重できてなかったか」
ニンブス山から飛ばされて以降のことを、ティエラは振り返っていた。
手を繋いだり、抱き寄せられたり、抱きかかえられたり……。
思い出すと恥ずかしくなって、心臓が今にも飛び出しそうだ。
姫と護衛騎士だからと言われればそうだが、それ以上に二人の関係性が元々近かったのだと、はっきりと気づかされた。
(でも、ソルは私と恋人同士だったことを隠していたわ……。一体どうして……?)
ティエラは、自身に沸いた疑念を、ソルに対してぶつけてみることにした。
「私が思い出さなかったら、ソルはどうするつもりだったの? ルーナと私がそのまま結ばれれば良いって、そう思っていたの?」
ティエラの泣きそうな顔を見て、ソルは答える。
「そっちの方が、あんたにとっては良いと思ってたんだよ、一族のこととかもあったし」
それを聞いたティエラは、少しだけ傷ついた表情になった。
「まあ、今は一族がどうとか以前にあんたの誘拐犯扱いで、国王暗殺の濡れ衣まで着せられてるから、もうあんまり関係なかったりしてな」
ソルが軽口を叩いた。
「それに、あんたも記憶を失くしてたわけだし、見知らぬ男から恋人同士だって言われても信じられないだろう? あんたには婚約者だっているわけだし……」
「それもそうね……」
ティエラは冷静さを取り戻していった。
ソルの言う通り、しばらく彼と過ごして徐々に信頼関係を築き上げたからこそ、彼との本来の関係性を受け入れることが出来ているとも言える。
ふと、ルーナのことがティエラの頭をよぎった。
彼は、ティエラとソルの関係を知っていたのだろうか?
知っていたからこそ――。
ティエラに接する際のルーナは、いつも情緒不安定だったのかもしれない。
今のティエラの中には、ソルとルーナの二人ともが存在している。
二人のことを考えると、胸が詰まる思いがした。
「禁断の恋だのと、単に盛り上がっていただけではないかえ?」
ティエラとソルの二人しかいないはずの部屋に、突然声がした。
二人は、声がした扉の方を振り返る。
そこに立っていたのは、扇で顔を隠したフロースだった。




