第59話 ティエラとソルの関係1
「姫様と同室が良い……だと?!」
ソルの一言により、女騎士アリスは唖然としていた。
「未婚の男女が同室だのと、絶対にダメだ!」
アリスは彼に向かってわめき散らす。
「城にいた頃からティエラの部屋には入ってたし、場合によっては部屋の中での護衛もあったんだから、良いだろ別に」
ソルはため息をつきながら、アリスに返した。
アリスはぐっと押し黙る。
「あんたはどうだ?」
「え?」
ティエラはソルに問われる。
(え~~と……)
ソルとティエラは、宿屋で同室で過ごしていた。宿屋をとった際に、ティエラも今のアリスと同じような反応をしたことを思い出していた。
ティエラは、数日間ソルと一緒の部屋で過ごしていたことを思い出す。
(当然この城でも同室だと思い込んでいたわ……すっかり感覚が麻痺してる……)
ティエラは隣にいるソルの袖を掴んで話しかける。
「婚約者のアリスさんに悪いから、部屋は分けてもらった方が……」
ティエラがそう言うと、アリスが慌てて訂正を入れた。
「姫様、違います! 婚約者などではありません! 縁談の話が出ているだけで、こいつはただの騎士団の同期です!」
ソルが継いだ。
「ほら、こいつもこう言ってるし……あんた、また目を離したらどっか行きそうだから、俺は一緒が良い」
彼の碧の瞳は真剣そのものだった。
ティエラの金の瞳は揺れる。
「部屋が隣とかじゃダメなの? 近かったら良いのよね?」
「ああ? まあ、妥協案はそれだな」
「私も……ソルが近くにいてくれた方が安心だし」
二人で見つめあっていたところ――。
「姫様! 生憎、客室があるのがあとは離れだけでして……」
アリスが入り込む。
ソルがティエラの肩に手を置いた。
「じゃあ、決まりだな」
「え?」
「――同室だ。早く休もうぜ」
ソルに促され、ティエラは客室を二人で使うことに決めた。
そうして二人は、アリスに挨拶をすると、部屋の中へ消えていく。
「……」
アリスはしばらくその場に立ち尽くしていた。
※※※
ティエラは寝台の上に腰かけて休む。
「ティエラ、菓子があるぞ、食べるか?」
部屋の中に用意されていたお菓子を、ソルがティエラに差し出した。
だが、ティエラはあまり食べたい気持ちにはなれず、それを断る。
「あんた、甘いもん好きだろうが……どうした?」
「……別に」
ティエラはついソルにそっぽを向いてしまった。
「なんか意味わかんねぇな、ったく」
ソルがため息をついた。
「もしかして、ルーナのこと気にしてんのか?」
(ルーナのことも気になるけど……)
だが、今はそれよりもーー。
「……アリスさん、綺麗だなって…」
「はあ?」
ソルがティエラを奇妙がった。
「あんた、やたらとアリスのことを気にしてんな」
そう言われてしまい、ティエラは言葉に詰まる。
(確かに、気にしすぎと言われればそうかもしれない)
「そう言えば、記憶を失う前も、アリスがどうのこうの言ってたか……」
(昔の私も……?)
ティエラの胸の奥に、ざわめく感覚があった。
なぜだか妙にアリスを気にしている自分にも、ティエラ自身、違和感がある。
心臓の音がだんだん大きくなっていく――。
(昔の私が……記憶があった頃の私が――無意識にソルのことを気にしているのかしら?)
ティエラはそう考え始める。
胸が苦しすぎて、彼女はソルに答えを求めた。
「ねえ? ソル……」
「なんだ?」
「記憶を失う前の私達は、どんな関係だったの?」
ティエラのまっすぐな視線に射ぬかれ、ソルは言葉に窮したのだった。




