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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第2部 太陽の章

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第54話 疑われている

 



 ティエラは、背後に騎士がいることに気付かなかった。


「お前たち、門に向かわず、こんなところで何をやっている!?」


 そう二人に呼びかけてきた騎士は、中肉中背で、やや高い声をしていた。

 つかつかと靴を鳴らしながら、二人の元まで歩いてくる。


 ソルは外套でやや口許を隠しながら、騎士と相対した。


「城壁が高いなと思い、二人で眺めておりました」


 ソルの対応が、丁寧なものに変化した。

 相変わらず切り替えが早く、ティエラは感心した。

 騎士はまだ、二人に疑いの目を向けてくる。

 そうして騎士は、ティエラとソルに向かってこう宣言した。


「若い男女は通すなと言われている」


 ソルは小声で呟いた。


「まずい……俺達のことかもな……ウルブで何か手回しがされている」


 ルーナがウルブに対し、何か指示を出したのだろうか?


 さらに騎士が二人に距離を詰めてくる。


「二人とも若いな……見たところ、そちらの女性は上品で貴族のようだが……男はなんだ? 付き人か?」


 外套で顔を隠したソルを、騎士はまじまじと観察している。


「私達は夫婦で、各地を回っております」


 ソルのその台詞に、ティエラは慌てて頷く。

 ニンブス山の麓の村でも、二人は夫婦を演じた経験があったため、ティエラはなんとか対応出来た。


「夫婦か、だが若い男女には変わりない! 我々の元に来てもらおう! 通行証の確認や身体検査などを細かく行いたい」


(通行証なんて持っているのかしら?)


 ティエラは気になった。

 ソルは「わかりました」と丁寧に答えた後、ティエラに目配せをして、声を出さずに口をぱくぱくと動かした。


『だいじょうぶだ』


 それを見て、ティエラは安心した。

 ソルがそう言うぐらいだから、何か勝算があるのだろう。


 二人は騎士について、正門に向かって歩きだした。

 ちょうどその時、黒塗りは豪奢な馬車が二人の脇を通りかかった。

 そして二人が向かう少し先で、その馬車が止まった。


 馬車から誰かが出て来ようとするのを、女騎士が制止しようとしている。


「…! ダメです! 私が呼んでまいりますから!」


 何やら馬車でもめているようだ。


 ティエラはそんな様子を見て、ほとんど無意識にソルの手を握った。

 彼がティエラに視線をやる。


 扉が開く音がする。

 先程まで、誰かに制止されていた者が、外に出てくる。


「そなたらは何をしている?」



 中から出てきたのは、不思議な話し方をする黒髪の、美しい女性だった。





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