第53話 ウルブの都……怒らない?
ソルが盗賊を倒した後、二人は寄り道などはせず、街道を南にまっすぐに歩いた。
街道で二人が歩いていると、馬車や馬が駆け抜けていくこともあった。
ニンブス山の麓の村で、二人も馬が借りれないか打診したが、生憎すべての馬が出払っていた。
そのため二人は、村からウルブの都まで、徒歩の旅になったのだった。
おかげで盗賊と再度出くわしたわけだが…。
ソルにとっては良い運動になったらしく、結果は良好となった。
太陽が南中に見える。
二人が荒野を抜けると、遠くにウルブの都の城壁が見えてきた。
「……! ……大きいわね!」
ティエラが感嘆の声をあげる。
彼女の喜ぶ顔をみて、ソルも破顔する。
「首都ほどじゃないけどな。昔は、ウルブが首都だった頃があったそうだ」
ソルの説明を聞き、ティエラはそれもそうだと納得した。
ウルブの都は、とにかく大きかった。
おそらく、村十個、いや二十個分の規模はあると推察された。
さらに二人は歩いた。
城壁に到着した頃には、南中にあった太陽が、すでに西に傾き始めていた。
ティエラは、正門から離れた位置に立ち、ウルブの都の城壁を見上げる。
壁は、まるで空に届くのではないかと錯覚してしまうほどの高さがある。
門に近付くと、騎士二人が守りを固めているのが遠目で分かった。
「ソル、騎士がいるけど、知り合いだったりしない?」
「少なくとも俺は知らないな」
ティエラは「それなら安心ね」と言おうとしたが……。
「もちろん、あいつらは俺のことを知ってるだろうな」
そうソルに言われ「やっばりか」と、ティエラは肩を落とした。
ソルは剣の守護者である。
それに加え、剣の一族の次期当主、騎士団長の息子、次期騎士団長、王国最強の剣士、ティエラの護衛騎士……。
とにかく称号が多い。
この王国の騎士団の中で、ソルを知らない者を探す方が困難だと言っても過言ではない。
むしろ、王女のティエラの方が、あまり顔を知られていないだろう。
以前、城で御針子達が、「ティエラ様とソル様がお忍びで城下街に来ていた」話をしていた。
きっとティエラとソルは、全く忍べていなかったに違いない……。
「おい、どうした? 何考えてる?」
「え?! いや、この前の……話を……」
ティエラの声は段々小さくなっていく。
この前、この話をソルにしたところ、やや不機嫌になったのを思い出したのだ。
話が途切れたのが気になったのか、ソルがティエラに問いかける。
「言えよ、続き。気になるだろ」
「ええと、その、怒らない?」
ティエラはおどおどしながら、ソルに返す。
「はあ? 何にだよ…」
ソルは怪訝な顔をして、ため息をついた。
「怒るような話なのか?」
「この間は、ソル、機嫌が悪くなった」
ティエラがしゅんとしながら、ソルに話す。
「なんだよそれ? いつの話だ?」
ティエラは意を決して、話してみることにした。
「婚礼の儀で着るドレスを作りに来た御針子達の話をしたでしょ、彼女達が…」
ソルがまたため息をつく。
「ああ、あれか…」
ソルはティエラから視線を外した。
「御針子達がね、私達がお忍びでよく城下街に行ってたって話してたから、それが気になってたの」
「ああ、あんたとよく行ってたな……あれ、やっぱり周りから気付かれてたのか……」
そう言って、ソルが以前の話をしようかという時――。
「そこのお前たち! 止まれ!」
後ろから来た騎士に呼び止められてしまったのだった。




