第2話 月は名乗る
5/26削除していたオルビス・クラシオン王国についての説明を加筆しました。
白金色の髪に蒼い瞳をした、女性と見間違える程の類いまれなる美貌を持った青年。
彼は、ルーナ・セレーネと名乗った。
少女の婚約者だという彼は、少女にティエラ・オルビス・クラシオンという名前と、彼女が国の王女であることを伝えた。
その名前に、彼女は違和感なくなじんだ。恐らく、自身の名前で間違いがないのだと思う。
「私は、ティエラ。ティエラ……」
そう言って、自分の名前を繰り返すティエラの姿を、ルーナはじっと見ていた。
しばらく経って、ティエラが落ち着いてきた頃。
ルーナが、国やそれにまつわること、彼女に起こった出来事を説明し始めた。
「オルビス・クラシオン王国は、北に山地、南は海に面し、自然に恵まれ、面積は狭いながらも豊富な資源を持つ国です。東西は他国にはさまれており、数年前に一度戦争が起こりましたが、現在は平和と言えます」
ルーナの話にティエラは頷いた。
「王国内には四つの都が存在しますが、我々が今いるのは首都であり、ここは王城になります」
姫だというぐらいだから、首都の王城にティエラがいるのもおかしくはない。
「この国には、鏡・玉・剣、三つの『神器』が存在します。それぞれを守護する一族が存在し、それぞれの神器から各々の加護を受けています」
「神器、加護……」
ティエラは疑問を抱いた。
「何のために、神器と一族は存在しているの?」
「それは、この国を脅かす竜を封印するためです」
「竜を……?」
記憶はないものの、一般的な知識は頭に残っているようだ。
竜と言うと、皮膚が鱗に覆われ、鋭い牙を持ち、羽根のはえた異形の怪物が脳裏に閃いた。
ティエラの反応を確認しながら、ルーナは話を進める。
「姫様は、鏡の一族になります。そして、鏡の守護者でもあります。三つの一族のうち、鏡の一族が代々王位を継承されているのです」
話は続く。
「これまで、王位継承は男性のみでした。しかし、近年男児が生まれなかったため、姫様が次期女王になるという話になっておりました」
ルーナが、伏し目がちになる。
「ですが、剣の一族が女系継承者に異議を唱えておりました。数日前、剣の一族の次期当主であり、剣の守護者に当たる人物が、姫様の父君に当たる国王陛下を殺害してしまいました」
(私の父を殺害……?)
不穏な単語が聞こえ、ティエラの背筋がぞくりと冷たくなった。
「そばにいらっしゃった姫様は、その場で意識を失われました。剣の守護者はそのまま逃亡しましたが、姫様の命をまた狙いに来るかもしれません。そのため、玉の守護者である私が、現在城に結界を張っております」
「私は、その剣の守護者に狙われるかもしれないの?」
「ええ、可能性はあるかと……」
ルーナにそう言われ、ティエラの胸の中で不安が高まっていくのを感じた。
ティエラは、国王暗殺事件から数日間眠りについており、今しがた目を覚ましたという。
多くのことを説明されたのもあり、彼女は少々混乱していた。
身の置き所のなさを覚えて、自身の身体を腕で抱きしめる。
そうしていたところ、彼女に影が差す。
気付けば、ティエラはルーナの腕の中にいた。
「私がついております、姫様」
彼の腕に力が入る。
ティエラはどうして良いかが分からずに、身体が硬くなってしまう。
彼に、自分の婚約者だと説明はされた。けれども、記憶を失ったティエラからすれば、彼は出会ったばかりの年上の男性でしかない。
正直なところ、彼女には嬉しいと思うよりも、どう振る舞えば良いのか分からないという気持ちの方が強かった。
現在一番頼っても良いのが、婚約者である彼なのだろうか?
自身と彼との関係性が、良かったのかどうかも全く覚えていない。
ティエラは、おずおずとルーナにたずねた。
「その、ルーナ……さん。貴方は私の教育係で、しかも婚約していたと言いますが、私たちはどういった関係だったのでしょうか?」




