第41話 鏡の神器の力
7/11文章を見直しました。
一応、シルワに乗り移られている際も、ティエラに意識は残っていた。
(私の口が勝手に話してる感覚だったわ……)
シルワが身体から出ていけば元に戻ると思っていたのだが――身体に乗り移られた後から、ティエラの身体は全く動かなくなっていた。
川から上がった後もその状態は続いた。
「ありがとうございます、運んでもらって……」
「ああ――」
ティエラは横向きにして、ソルに抱えられている。
(何も着てないから恥ずかしい――)
ソルはティエラが裸でも気にしていないようだったが、彼女は気になってしょうがない。
「あんた、身体はまだ動かないだろ?」
「は、はい」
ティエラは着替えたかったが、自分で着衣することは難しいようだ。
「あの……ソルに頼むのは恥ずかしいのですが、私にドレスを着せてくれませんか?」
ソルに抱きかかえられたままのティエラは、おずおずと尋ねた。
彼は彼女を見て、目を丸くしていた。
「は? 服を脱がせるならともかく、俺に着せるのは無理だ」
(脱がせるのは大丈夫なの――? 残念だわ……)
そのため、ソルの騎士団のコートをティエラの身体の上に掛けて、二人は村まで帰ることになった。
※※※
幸いなことに、村人に出会うこともなく、宿に帰ることが出来た。
(たまたま、宿屋のご主人も玄関にはいなかったわね……不幸中の幸いだったわ)
ティエラはソルにベッドにおろしてもらう。そうして、彼に掛け布で体を覆ってもらった。
「昨日、熱出してたし、今日は昼過ぎまでは身体が戻らないかもしれないな」
(そんなに動けないの……?)
ティエラは愕然とした。
身体は動かないが話は出来る。
そのため、先ほどの出来事をソルと話すことにした。
「さっき、シルワ姫だったかしら? 彼女が私の中で話していたけれど、あれは……?」
「ああ、あれか? あれは憑依だよ、元々お前ら鏡の一族にそういう体質の奴らが多いらしい」
そう言われて、疑問が沸いた。
「でも、私の神器の力は癒しの力だって……」
「ああ、そうだ」
ますます意味が分からなくなってしまった。
「他者を癒すことができる魔術を行使する力、何かに憑依されやすい体質。それぞれを持つ人間は、国にもわりといる」
彼の話は続く。
「だが、お前の場合は回復できる範囲も広範囲だし、自分に憑依した人間も――というか霊魂か――癒すことができる。これが出来るのは、王国では、鏡の神器の守護者であるお前だけだ」
ティエラは自分の本来の力を聞かされ、驚かされた。
「まあただ、使う威力が大きい分、反動も大きい。お前はわりかし、自分の意思に関係なく憑依されることがあるから、俺みたいな専属の護衛騎士がいるってわけだな……並みの騎士だとそっちも乗っ取られて話にならない。まあ、元々似てる人間じゃないと憑依できないんだけどな」
(ソルが私の護衛騎士に任じられていたのは、王女という理由だけではなかったのね……)
そして、彼の言うような理由なら、よほど信頼のおける相手でないと、安心して護衛を任せることが出来ない。
(幼少期からそばに置かれて、共に育てられるのも納得だわ……)
※※※
「あんたは記憶を失くしてるんだから、さっさと説明しておくべきだったな……てっきり、ルーナが教えてるもんだと思ってたんだが……」
塔の上でルーナから「お前は何も知らない」と言われたことを、ソルは思い出した。
シルワ姫は、「成人の日が近いから逃げたのか?」)と言っていた。
(ルーナは何か知っていて、あえてティエラに何も教えていなかったのか?)
単純に城の中ならば、ルーナの結界が張られているため、ティエラが憑依される心配がない。だから、彼は彼女に説明していなかったのかもしれない。
(俺にも、どうせならティエラは知らなくても良いと、伝えていないことは多い……ルーナと自分に大差はないのかもしれないな)
だが、それらを判断するには、まだ色々な情報が不足していると言えた。
(明日、シルワ姫と再度話すことで、その判断材料が増えるかもしれないな)
ソルはティエラの許可なく、シルワの願いに頷いてしまった。
(だが、ティエラにかかる負担が大きすぎる――本人の意思を確認しなかったことは後悔している……)
「あの姫さんの話を聞きに行くのを、勝手に決めちまって悪かったな」
「いえ、国王の妹だって言ってたから、私のおばさんになるんですよね? だったらお話は聞いてみたいから、大丈夫ですよ」
※※※
ティエラは、弱弱しく微笑んだ。
(今日みたいに、また体が動かなくなるのは心配ね)
けれども――。
(ソルがついているなら、ちゃんと守ってくれる気がする)
記憶を失ってからまだ数日しか一緒に過ごしてはいない。
(だけど、ソルは信頼できる相手だわ――)
「あの……ただ……」
ティエラは、ソルに言い足した。
「あいつはこんなに色っぽくないって言われたのは、少しショックでした」
それを聞いたソルは苦笑いを浮かべた。




