第39話 あいつに色気はない
さらさらと流れていく小川の中――。
ソルがティエラを抱き締めたまま、しばらく時間が経った。
泣きじゃくっていたティエラだったが――。
しばらくすると、ソルの碧の瞳を、彼女は潤んだ瞳でうっとりと見上げた。
水で濡れた亜麻色の髪が、服を身に付けていない肢体に張り付いている。
川の雫が身体の曲線に沿い、なだらかに流れていく。
川のせせらぎだけが聞こえるなか、先に静寂を破ったのはソルだった。
「それで?」
ソルの声色はいつもより低い。
「神器がかなり反応して煩いんだが……ティエラに憑いてるのは誰だ?」
「え……?」
ティエラはソルを見上げたまま、たじろぐ。
彼女の身体がソルから離れようとしたので、彼は彼女の手首を掴んで引き留めた。
「お前のことだ」
ティエラは戸惑う。
「な、私……」
「それに――」
ソルがティエラを見据えて言った。
「――あいつはこんなに色っぽくない」
彼に対して目の前の彼女――に憑依した別の誰か――は自虐気味に笑う。
「そんなことでばれるなんてね」
「ティエラといると、たまにこういうことがあるからな……それで? お前の目的はなんだ?」
ティエラに憑依した誰かは、彼の問いに質問で返した。
「貴方、神器を持っている上に、その容姿。――剣の一族なんでしょう?」
「ああ、そうだ――」
「だったら……」
裸のままのティエラに憑いた女性は、背筋を正して答える。
「私はシルワ」
彼女の話し方は凛としていた。
「シルワ・オルビス・クラシオンよ」
ソルは目を見開いた。
ティエラに憑依した誰かは、ティエラと同じように王家の名を冠する女性だった――。




