太陽の哀哭
ソルは、自身の腕の中で、すやすやと眠るティエラを見つめた。
彼女のさらりとした亜麻色の髪が、彼の指をすり抜ける。
いつも彼の姿を映していた愛らしい黄金の瞳も、目を瞑っているので分からない。
「ティエラ……俺は、あんたが――」
※※※
(ティエラの記憶が失くなった)
毎日一緒にいた俺のことを、すっかり忘れてしまっていた。
鏡越しに会話した時に、記憶がないことが分かって、全く傷付かなかったと言われれば嘘になる。
あんなに一緒だったのに、顔すら覚えられておらず愕然とした。
一方で、どうせそんなもんだろ、どこか醒めている自分もいた。
彼女からすれば、忘れられるだけの存在でしかなかったのだと――。
薄情な女だと、彼女をなじる自分もいた。
――けれども、同時にこうも思った。
何もかも忘れられたのは、自分と婚約者がいるティエラとの距離が近くなりすぎたことへの罰だったのかもしれないと。
他の男の元へ行ってしまう彼女と、距離を置くのにちょうど良いのかもしれないと思うようにした。
結局自分達は離れなければならない。
最近のティエラはいつも元気がなかった。
ティエラも思い出したところで、彼女自身がまた苦しくなるだけだ。
彼女が悲しむぐらいなら、もう無理に思い出さなくても良い。
大切な思い出は全部、自分だけが覚えていれば良いと思っていた。
昔のような、明るいティエラに戻ってくれるのなら、自分だけが我慢すれば良いと――。
だけど、再会した時――。
結局、自分がいない間に、彼女の心を手にしていたルーナへ嫉妬した。
ルーナに好きなようにさせているティエラにも腹が立ってしまった。
そんな中でも、どこかで期待している自分もいた――。
記憶がないにも関わらず彼女は俺をかばった。
俺が渡したペンダントを大事にしてくれている。
どうしても、また彼女が自分を見てくれる日がくるんじゃないかと期待してしまう。
それはダメだと分かっているのに――。
「ティエラ……俺はあんたに、どうしてもらいたいんだろうな――」
――自分達が結ばれる未来などありはしないのに。




