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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第2部 太陽の章

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第34話 手をつないで歩く

 7/4文章の見直しをしました。

 


 

 翌朝――。


 ティエラが目を覚ました時には、紅い髪の青年ソルの姿は近くに見当たらなかった。


(たぶん、近くにいるのでしょうけど……)


 まだ一緒に過ごして一日も立っていないが、彼が彼女を置いていくはずがないという確信のようなものがあった。


 せせらぎが聞こえる川に近付くと、ティエラは浅瀬で顔を洗い始める。


(水がひんやりとしていて、気持ち良いわ)


 川の水は穏やかに流れていく。


 水面に自身を映し、ティエラは髪や衣服などを整える。


(ペンダントの位置がずれているわね……)


 彼女がペンダントの位置を整えていると、ふと首筋が赤黒く変色していることに気づいた。

 川に顔を寄せ、首筋をよく観察する。


(一ヵ所だけではなく何ヵ所も……何かしら、これ……? 虫にでも刺されかしら――?)


 赤黒い跡はら首筋から胸元まで続いている。

 そこまで考えてティエラは、はっとする。


(塔に向かう前にルーナに、口づけられて――)


 その途端、顔が勝手に熱くなっていく。


(こんなに跡になってるなんて……)


 ティエラは後ろ髪を前側に持ってきて、誰かに見えないように工夫した。


(見られる相手は、ソルしかいないけれど……)


 気にしなければ良いだけだが、なんだか気になった。


 そういえば、彼女の胸元を見ていたソルの様子がおかしかったような気もする。


「おい、魚捕まえたから飯にしないか?」


 背後から突然、ソルに声をかけられたティエラの身体はびくりとなる。

 髪で胸元を隠しながら、ティエラは振り返った。

 まだ生きている魚を二匹、彼は手に持っていた。


「おはようございます」


「ああ、おはよう――」


 ソルはティエラを見ると、間髪入れずにこう言った。


「ああ、首のそれ。数日もすれば治るから、気にしない方が良いぞ」


 ソルは踵を返す。


(数日もすれば消えるって――それだけ?)


 ティエラは彼の反応に、複雑な気持ちになった。




※※※




 焚き火であぶられた魚を、ソルとティエラは美味しくいただいた。


「陽の位置なんかからして、恐らくここはオルビス・クラシオン王国国内のニンブス山だろう……確か、山の下に村があったはずだ。半日ぐらいかかる。今から降りるぞ」


 野営の後片付けをしてから、二人は出発した。


 川に沿って、山をくだっていく。


 このまま川沿いに歩いていけると思っていたが、途中に森が待っていた。


 森に入る前に、ソルから説明を受ける――。


「森には獣だけじゃなくて、魔物や盗賊が出ることがあるから気をつけろ」


 ティエラはこくりと頷いた。




※※※




 森の中は鬱蒼としており、歩く際には木々の隙間からのぞく光が唯一の頼りだった。

 陽があまり射さないからか、森の中は川の水のようにひんやりとしている。


 森の中では、時々獣や魔物が現れたが、ソルがすぐに一蹴してくれる。


 途中、木々が地面を覆わず、光が差し込む丸い広場があった。


 二人はそこで休憩することにした――。


 ティエラは丸太に腰掛ける。


(獣や魔物などにも警戒していたからかしら? どっと疲れが出てきたわ)


 慣れない山道で、足がじくじくと痛む。


 ソルが、ティエラの近くに寄ってきた。


「あんた、大丈夫……じゃないみたいだな」


 そう言うと、ソルはティエラの前に跪いた。


「脱がすぞ」


「え――?」


 言うが早いか、ソルはティエラの靴を脱がせる。

 いつものことだが、彼女は狼狽えた。

 彼女の反応を見て、ソルが返す。


「毎度のことだが……今さらだ」


 彼の両手によって、ティエラは足を包まれた。


「そんなこと言われ――きゃっ――!」


 ティエラの足裏がソルの指先を敏感に感じ取ってしまい、ぴくりと震える。同時に軽く声が漏れてしまい、ティエラは羞恥で顔を真っ赤にした。


「やっぱり擦れてるな」


 ソルが白い手巾を取り出し、縦に何度か割く。


「あんた、足、弱かったな。そう言えば」


 ソルは悪戯っ子のような表情をしていた。


(足が弱いのまで知られてるの――!?)


 ティエラは、さらに恥ずかしくなった。


 結局――。

 割いた布を足に巻かれる際にも、ソルの指が触れる度に、彼女の足は震えて声も漏れてしまう。


 終わった頃には、ティエラはぐったりしていた。


(休憩のはずが、疲れちゃったわ……)


「立てるか?」


 正直まだ落ち着かない気もしたが、ティエラは頷いた。

 ソルに身体を支えられながら立った後、そのまま彼に手をひかれて歩き始める。


 まるでいつもそうしてるように、自然に彼はティエラの手を掴んでいた――。


(ソルの掌から伝わる熱が、暖かい……)


 彼女からの視線を感じたのか、ソルが振り返った。


「ああ、悪い。これもダメだったか?」


 ティエラは少しだけ悩んだが――。


「――いえ、このまま大丈夫ですから」


――結局はそのまま先に進んでいくことにしたのだった。




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