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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第1部 月の章

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第28話 新月の夜2

6/21文章の見直しをしました。

 



 新月の夜――。


(想像していた以上に、塔へと続く森が暗いわ――)


 小道もあまり整備されているとは言えず、ところどころに石が転がっている。


(足許が見えづらい)


 踵が低い靴を履いているにも関わらず、ティエラは何度もつまづいた。


「姫様、手をひきましょうか? まあ、姫様の手をひいて歩いたことが分かったら、私はルーナ様に殺されるかもしれませんけどね――まだ死にたくはないかな~~」


「――結構です、ウムブラ」


「まあ、二十も年上のおじさんじゃ嫌ですよね」


 ウムブラの答えに、ティエラは怯んだ。


「貴方は、杖もついていらっしゃいますから」


「理由、それだけですか~~?」


 ウムブラは、穏やかというよりも飄々としていると言うべきか、とにかく掴み所がない人だった。ティエラが何か質問したとしても、するりとかわされてしまう――。


「姫様、見えましたよ」


 二人が森を抜けると、そびえ立つ塔が奥に見えた。


(塔の入り口前に、騎士がいるのかと思っていたのに――誰も立ってなかったわね――少し妙ね……すんなり中に入れたのは良かったけれど……)


 塔の中には螺旋階段がある。

 地上階から見上げたところ、尖端は見えない。


(かなりの距離を歩かないと、塔の一番上にはつかないようね――)


 階下では、松明によって灯りが点されている。だけれど、上に行くにしたがって、灯りがないようだった。


(階段の横には、柵も立てられてないなんて――)


 ティエラとウムブラの二人は、壁づたいに手をついて登っていった。


(落ちないようにしなきゃ――)


 ――どれくらい歩いただろうか。


 なんとか塔の最上階に、二人は着くことが出来た。

 ティエラの額には汗がにじんでいる。汗はそのまま頬を伝い、流れていった。

 ウムブラはというと、片手に杖を持ち、義足を引きずるように歩いていたというのに、汗一つ流れていなかった。


(体力があるのかしら――?)


「姫様、一人でよく上りきれましたね」


 ウムブラが、ティエラに笑顔を投げ掛けた。


「あの時、貴女の手をひいていたら、ルーナ様から私は殺されていましたよ~~」


(笑えない冗談ね――)


 しかし、少しだけ場は和んだ。


(ついに最上階――)


 重い扉を開く――。

 扉の先には、広場があった。

 広場の真ん中には台座が設置してあり、中央のくぼみに淡く光る玉がみえた。


(あれがおそらく、神器である宝玉――)


 玉は、とても神秘的な光を放っている。


(とても綺麗――)


 けれども悠長にはしていられない。


(誰かが――ルーナが、ここに来るかもしれない、急がなきゃ)


 ティエラは意を決して、宝玉の元へと進んだ――。


 慎重に先に進む。


(良かった、これで記憶が――)


 もうすぐで宝玉に手が触れるという時――。




「そこまでだ」




――ティエラの背にある扉の方から、声が聞こえた。



「貴女は何をやっているのですか――?」



 涼しげというよりも、彼女を制する冷たい声が――。


 



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