表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
後日談

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

279/289

if(月華・玉)後日談2 月を救いし子守唄

 ソルとティエラの本編後日談の前に、ルーナとティエラのif後日談が浮かんだので、先に投稿しました。

 6/4 子守唄のエピソードを入れ忘れていたので追加。




 まだルーナが十歳の時――。

 白金色のさらりとした髪に、神秘的で海を思わせる蒼い瞳。少年だが、少女のようにしか見えないルーナが、自分の意志に反した行動をとらされていた頃――。

 

「ルーナ?」


 赤ん坊を抱え、ベッドに腰かけている女性が、ルーナに声をかけてきた。

 彼女は、本来は金色の髪に丸い瞳をした可愛らしい女性だった。だけど、現在、どことなく頬がこけていて、目もどことなく虚ろで、死期が近いことが分かる。

 


「はい、王妃様……」


 もうすぐ亡くなるだろう王妃の見舞いへと、宰相である義理の父親がルーナを連れてきていた。

 義理の父は、国王陛下との会話のために部屋の外に出て行ってしまってルーナと同じ、この子も神器の守護者になるかもしれない。いる。

 先ほどまで、剣の一族のソラーレ家の長男が近くにいた。けれども彼もどこかに行ってしまったようだ。


 やつれた王妃は、ルーナに声を掛ける。

 

「次期・玉の守護者には貴方が選ばれたそうね……」


 王妃の言葉を受けて、ルーナは首肯した。

 彼女の抱えている赤ん坊は、手足をもぞもぞと動かし始めている。

 もうすぐ、目を覚ますのかもしれない。

 赤ん坊を見ながら、王妃はルーナに声をかけた。


「この子はティエラというの……。女性が、神器の守護者になったことはこれまでないそうだけど……。ルーナと同じ、この子も守護者になるかもしれない。そうしたら、この子をよろしくお願いね」


 王妃にそう言われたが、正直ルーナとしては気分が悪かった。


(どうして、僕を助けてくれない大人の言うことばかり、聞かなくちゃいけないんだろう……)


 貴族たちの手から助けてくれない王族の言うことなんて――。

 

 そんな中、王妃が抱きかかえていた赤ん坊が声を上げて泣き始めた。


 その大声が耳障りで、ルーナの心の苛立ちが増していく。


「あら? どうしたのかしら? 全然泣き止まないわね……」


 ちょっと困った様子で、王妃は赤ん坊を抱きかかえなおしていた。

 その時、腕の力が弱っていた王妃が、赤ん坊を取り落としかける。

 赤ん坊に対して苛立っていたルーナだが、咄嗟に腕を伸ばし、赤ん坊を抱きあげた。


「ごめんなさい、力が入らなくて……」


 謝る王妃から、ルーナは赤ん坊を託された。彼は、慣れない手つきで、首がまだ座らない赤ん坊を必死に抱きかかえる。

 あやしているうちに、ルーナは赤ん坊と目が合った。

 何もかも見透かされそうな金の瞳――。


 そうしてその赤ん坊は、ルーナににっこりと笑いかけた。


「笑った――」


 ルーナは驚いて、その場で身を固くしてしまう。


「まだ反射なのでしょうけど、笑うと可愛いわよね。ルーナは将来、良いお父さんになれそうね」


 くすくすと王妃が笑っていた。

 良いお父さんとは、どういう人を指すのだろうか?

 自身の父しか分からないルーナにとって、想像するのがとても難しかった。

 

「赤ん坊は、どんな人でも無条件に愛してくれる、とても尊い存在よね」


(どんな人でも――)


 罪を犯した人間や、腐りきった貴族のこともだろうか――?


 汚れきった自分でも――。


 ルーナは心の中で首を横に振った。


(僕を無条件で愛してくれる人など、いない――)


「ルーナ」


 王妃に話しかけられ、ルーナは、はっとした。


「貴方にも、絶対現れるわ。貴方を無条件に愛してくれる女性が――。そして、良い父親にもなれるわ――」

 

 この日がルーナにとって、王妃と会った最後の日であり、彼にとって最愛の女性となるティエラと初めて出会った日だった――。




※※※




 ルーナははっと目を覚ました。


(まだ、真夜中か――)


 彼は慌てて、寝台の上を確認する。

 ルーナの隣には、寝息を立てて眠るティエラがいた。


(良かった、姫様がいらっしゃる……)


 まさか、結ばれることなどないだろうと思っていたのに――。


 ルーナはティエラの亜麻色の長い髪を撫でる。


 無条件で誰かに愛されることなどないと思っていたのに――。


 自分本位な自分でも、汚れた自分でも、罪を犯した自分でも、彼女は無条件で受け入れてくれた。


 ルーナとティエラから少し離れた位置から、赤ん坊の泣き声が聞こえた。


 寝台を降りたルーナは、揺り篭の中で泣きじゃくっている我が子を、壊れ物のように大事に抱き寄せる。

 赤ん坊をあやしながら、ルーナは声を掛けた。


「お母さまはあまり眠れていないから、寝せておいてあげよう」

 

 そう言ってルーナは幸せそうに笑んだ。

 しばらくして、赤ん坊がきゃっきゃっと笑い始める。


 愛しい女性と家族となって、共に暮らせることがこんなにも幸せだなんて、ルーナは知らなかった。


 そうして、自分を無条件に愛してくれる存在がまた一人増えた。


 昔は、自分の子供など絶対にほしくないと思っていたのに――。


 彼女に出会ったことで、その考えも変わっていった。


 ルーナは、眠るティエラが起きない程度の声で、ぽつりと呟いた。


「私に、家族の幸せを教えてくださって、本当に感謝しております、姫様」


 ティエラからは、「姫様」と呼ぶと叱られてしまう。

 だけど、彼女が子どもを産んで母になった今でも、ルーナにとってはいつまでも愛おしい姫様のままだ。


 ルーナは赤ん坊に、子守唄を歌って聴かせる――。


 ルーナの母が、幼い彼に歌ってくれていた唄。


 ティエラがいなければ、一生思い出すこともなかっただろう。


 笑う我が子を胸に、ルーナは幸せを嚙み締めるのだった――。




 いつもお読みいただき、ありがとうございます。

 現在、癒し姫の本編の改稿をおこなっております。本編で唯一後悔しているのは、メインヒーローのソル関連です。彼が遅れて現れたこともありソルの話が少なかったことと、わりと最後もルーナに見せ場を持っていかれてしまったことなどの心残りがあり、追加エピソードを入れながら改稿を進めています。お時間がおありの方は、ぜひお読みくださいませ。

 

 今後、アルファポリス様でなろうと同じもの、KAKUYOMU様にて癒し姫の一人称版の投稿、ムーンライトノベルズ様にてR18版を検討中です(R18的な描写はそんなに入らないはず)。そちらもお時間おありの方はぜひご覧ください。


 それでは、近日中にソルとティエラの後日談をこちらに投稿いたします。

 お待ちいただけましたら幸いです。

 ソルの母親を早く出したい、おうぎまちこでした。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ