本編(炎陽・剣)後日談4-2 彼の告白に彼女は応える2※R15
悪戯っぽい笑みを浮かべるソルに、ティエラはたじろいだ。
「さっき、あんた、自分で何言ったか覚えてるか?」
「何って……」
ティエラは、自身の発言を振り返る。
(ま、まさか……)
『私達に子どもでも出来たら、貴族達も静かになるかしら?』
自分の発言を、今更ティエラは後悔し始めた。
慌てふためき、ティエラはソルに反論する。
「さ、さっきのは、言葉のあやで……」
ティエラがじりじりと後じさりする。
「言葉のあや、か……」
ティエラの腰が執務机に当たる。左右に逃げようとしたが、彼女を覆うようにしてソルが机に両手を置いてしまった。
(逃げ場を失った……)
ティエラは、声を上ずらせながら、ソルに伝える。
「ソル、こういうことは、仕事が終わってから……」
「あんたの言う、こういうのって、何だ?」
「こ、こういうのと言うのは――」
彼女が答える前に、また彼女の唇は彼の唇で塞がれてしまった。
何度か口づけを繰り返す。
「別の男にあんたを持っていかれないか、心配なんだ」
懇願するような彼の言い方に、ティエラの心臓が早くなっていく。
ティエラは、彼を安心させるようにソルの背に手を回した。
「……ソル、大丈夫よ、私はずっと、貴方と一緒にいるから……」
そばから誰かがいなくなる恐怖がまだあるのかもしれない。
しかも、もう一年ほど前になるが、ティエラは記憶を失うとともに、ソルのことを忘却してしまった経緯がある。
今はティエラは記憶を取り戻している。
だが、ティエラはソルを恋人だと忘れてしまい、婚約者のルーナの元でしばらく過ごしていた。その時のソルの心中を思うと、ティエラは胸がしめつけられるように苦しくなる。
そうしてまた、ティエラは黙ってソルの口づけを受け入れる。先程までよりも長い時間、彼に唇を預けた。
互いの吐く息が、ゆっくりと溶けていく。
お互いの唇が離れた時に、ソルが口を開いた。
「あんたが欲しくてたまらない」
吐息と共に話す彼の言葉に、ティエラの頭の芯がくらくらしてくる。
執務のことを忘れて、ソルの甘さにティエラは溺れてしまいそうになる。
また唇が離れた時に、ティエラは彼の名を呼ぼうとする。
その時――。
「二人とも、今は仕事中ではないのか?」
ティエラとソルの二人しかいないはずの空間に、咳払いとともに、別の男の声が響いた。
はっとして、声のした扉の方へと視線をやると――。
「いつも言っているが、ノックはしている」
――立っていたのは、白金色の髪に紅い瞳の青年セリニだった。
ソルは憮然とした表情で、扉の前にいるセリニを見た。
ソルとは対照的に、ティエラの顔は一気に紅潮していく。ソルの身体を押しのけて、ティエラはセリニに早口で話し掛けた。
「セリニさん、一体いつからそこに……!?」
「……そんなには見ていないので、ご安心を」
セリニの歯切れの悪い回答に、ティエラはますます決まりが悪くなり、首まで真っ赤になってしまった。
そんなセリニに対して、ソルはため息をついた後に、ぽつりと呟いた。
「セリニ、お前、相変わらず空気読まないのな……」
ソルにそう言われたセリニのこめかみに青筋が浮いているのが、ティエラの金の瞳に映る。
(あ、まずい、これは……)
「ソル! お前こそ、ちゃんと仕事をせんか!!!」
ソルに対して、セリニの雷が落ちた。
ソルはうるさそうにした後、ティエラに向き直る。
彼は、彼女の耳元でそっと囁いた。
また夜に、と……。
「ソル、話を聞いているのか?! お前は、魔術を教えている頃からそうだった……!」
ソルの態度に、セリニが憤慨したのだった。




