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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
後日談

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if(月華・玉)後日談1



 

 これまでにルーナが犯してきた罪は決して軽くはない。本人に頼まれていたこととは言え国王の暗殺、ルーナにとっては義兄であり宰相だったノワの間接的な死因を作ったこと、大半が罪人だったとは言え、多くの命を奪った経緯がある。ティエラとの結婚前から、貴族の間で噂が広まってはおり、そのままルーナが宰相の地位に留まることは難しかった。

 鏡の一族には、ティエラ以外にエガタがいることも判明していた。王になる者は存在しているので問題がない。

 竜を浄化した後、ティエラ・ルーナ・ソルの三人で話し合った。ティエラはルーナと一緒に罪を償いながら、国を陰から支えることに決めたのだった。

 オルビス・クラシオン王国と、スフェラ公国との境にある森の一角にある小屋。

 ティエラの幼馴染であり護衛騎士だったソルの取り計らいもあり、ティエラとルーナの二人はこの辺境の地で暮らすことになった。




※※※




 ティエラとルーナの二人が見知らぬ土地で暮らすようになってから、二ヶ月ほどが経とうとしていたある日のできごと――。


「重い物は持たないでください。私がやりますから、姫様」


 白金色の髪に蒼い瞳をしたとても美しい顔立ちの青年が、そばに立つ女性に声を掛けた。彼は平民が着るような上衣にベストを羽織り、地味な色の下衣を着用しているのだが、振る舞いに品があるため、どうしても平民には見えない。

 彼に話し掛けられた女性は、亜麻色の腰まで届く髪に金色の瞳をした可愛らしい顔立ちの女性だ。 桜色のワンピースを着ている彼女の腹部は少しだけ膨らんでいる。

彼女は頬を膨らませながら、青年に文句を言った。


「ルーナ、姫様って言ったら、周囲にバレちゃうわよ」


 彼女は手に持っていた、野菜の入った麻袋を机の上に置く。


「申し訳ございません……ティエラ様……」


 ルーナは眉をひそめながら、困ったような調子で彼女の名前を口にした。

 ティエラは彼に近づくと、人差し指を上に向けながら話を続けた。

 

「すぐに謝る癖も辞めた方が良いわ」


「はい、承知しました」


「敬語もどうにかしなきゃ」


 ルーナはますます困ったように笑った。

 ルーナは今年二十七歳。十七歳になったティエラよりも、彼は十歳年上だ。夫婦にもなったし、お互い地位も名誉も捨てて、共に過ごしている。けれども、王族出身だったティエラに対しての、ルーナの改まった態度がなかなか直ることはない。


「姫様……」


「ちょっと、ルーナ――」


 ティエラは文句を言おうとしたが、そこで辞めることにした。

 聡明な彼自身も分かってはいるはずだ。ただ、長年の癖が抜けないだけだろう。

 彼が、年下であるティエラに対して気を遣いがちな理由には、これまでの自分達の間柄も関係している。ティエラとルーナは婚約者同士だったにも関わらず、婚約者らしく彼と心を通わせていたのは、ティエラが幼少期の頃だけだった。


(ルーナは、私のことをずっと好きでいてくれていたみたいだけど……私は――)


 考えると胸が痛む。

 ルーナはずっとティエラを想っていてくれていた。けれども、彼女は不必要に彼を遠ざける様な真似をしてしまった。

 彼は彼女にずっと嫌われていると思い込み、行き場をなくしてしまった。


――彼女は、微笑を浮かべる。


「まだ、難しいのよね……少しずつ話せるようになれば良い――」


 彼女が話している途中、彼が右手に彼女の髪を一房とり口づける。城にいる頃から変わらない、流れるような動作だった。


「さすが私の姫様です、なんてお優しい……まるで天上から遣わされた舞姫でいらっしゃいます」


「そういうのは、得意なのよね……」


 ティエラは、彼にどう答えて良いのか分からずにたじろぐ。

ちょっとだけ、彼女が後じさりしたところ――。


(あれ……)


 頭がくらりとする。


「姫様!」


 ぐらついたティエラをルーナが咄嗟に支えた。

 彼女は、彼にすぐさま横抱きにされる。彼女はルーナに抱えられたまま、転移の魔術によって寝室へと連れて行かれた。

 ルーナによって、白いシーツの上にティエラは横たえられる。

 

「姫様、大丈夫ですか?」


 ベッドの脇に跪いたルーナは、ティエラの様子を心配そうに見つめていた。


「立ちくらみを起こしただけよ……ありがとう、ルーナ」


 彼女が微笑むと、ルーナも安堵した様子だった。

 彼がそっと、ティエラの頭を撫でてくる。


「以前、私が体調を崩した時に、姫様が看病なさってくれたことがございましたね」


「そうだったかしら?」


「はい、姫様は覚えておいでではないかもしれませんが……小さいあなたが、私を一生懸命看病してくださって……とても、嬉しかったのです」


 そう言って、ルーナは満面の笑みを浮かべた。

 彼の笑顔に、ティエラの胸がどきりと跳ねる。

 それと同時に覚えていないことを、少しだけ申し訳ないと感じた。


「ルーナ」


 彼女は、そっとルーナの頬に指を伸ばした。指に、彼の白金色の髪が当たる。彼の髪が、さらりと揺れ、窓からの光を受けてきらきらと輝く。


「ずっとすれ違っていた分、これからは一緒に、色々なことを経験していきましょう」


 ティエラが微笑んでいると、彼は、彼女の頭を撫でるのを辞めた。

 ティエラの顔に、ルーナの顔がゆっくりと近づいてきた。

 彼女は彼に唇を委ねる。

 何度か唇が離れては触れることを繰り返した。


「これから貴女様との想い出が増えていくのが楽しみです。姫様……いえ、ティエラ……」


 彼女に応えるルーナは、この世の者とは思えないほどの、美しい笑顔を浮かべる。

 そうしてまた、横たわるティエラに口づけを落とすのだった。





 ソルとティエラの後日談4の前に、ルーナとティエラのif後日談1の投稿になりました。

 ソルとティエラの後日談4が現在加筆中です。近日中に投稿します。長くなったら、後日談5の予定のものを6に回します。

 もしよければ、ブクマ・★評価まだの方、お願いできれば作者の励みになります。

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