最終話(if)
オルビス・クラシオン王国の王女ティエラ・オルビス・クラシオンの女王即位が、間近に迫っていたある日の夜――。
真夜中だと言うのに、金と銀の光が王国全体の空を覆った。
その光は、国民の怪我や病を瞬く間に癒したと言う。
そうして皆が、口々に子守唄を聴いたと告げた。
奇跡が起きた一方で、国を揺るがす問題が起こった――。
神器の守護者三人が行方知れずになってしまった。
数日後に、三人のうちの一人ソル・ソラーレが城に戻る。
彼の口から、驚くべき内容が告げられる。
ティエラ姫とその婚約者である宰相のルーナ・セレーネが命を落としたというのだ――。
一族同士での争いがあったのだから、一時は剣の一族であるソラーレ家の策略ではないかと貴族達は騒いだ。だが、すぐに宰相にセリニ・セレーネが就任すると、大きな声でその話題を口にする者達はいなくなった。
国の人々は噂した――。
ティエラ姫が竜を滅ぼすために神鏡の力を行使し、彼女に力を与えるために、彼女の婚約者であるルーナも宝玉の力を使い果たして亡くなったのだと――。
かくして、婚礼の儀を目前に亡くなったティエラ姫と婚約者であるルーナの話は、以降、物語として後世に語り継がれることになった――。
王族は全滅したと思っていたが、大公プラティエスとその妻フロースとの間にエガタという子がいたことが判明する。亡くなった国王の遺書も見つかり、エガタが王位を継承することになり、以降も王国は発展を続けた。
※※※
「強い力を持った神の子と、その母親が共鳴すると、あんなにも広範囲で強力な魔術が発動する、か――」
燃える様な紅い髪に、新緑を想起させる碧の瞳をした青年ソル・ソラーレが、そう口にした。彼は国に戻り、以前のように騎士団の衣服に袖を通していた。
対する白金色の髪に紅い瞳をした少年とも青年ともつかない男セリニ・セレーネが、続けた。
「元守護者で国の事情に通じているイリョス様がそう言うのだから、そうなのだろうな」
彼は続けた。
「まあ、姫様とルーナがいなくなった以上、我々があとは何とかするほかあるまいて――」
「そうだな」
笑うソルに、セリニが苦笑する――。
「ソル、姫様というお前の護衛対象はいなくなった。これからは、騎士団の――」
セリニの話を聞きながら、ソルがため息をついた。
「ったく、昔からお前は何を喋っても説教めいてるんだよ……」
そんなソルの態度に、セリニが怒鳴り出す直前――。
「セリニ様、失礼いたします。ソル、迎えに来たぞぉ、って――」
現れたのは青銅色の短い髪に、垂れた榛色の瞳をした青年、騎士団の服をまとった青年ネロだった。
「仕事中は、騎士団長って呼んだ方が良いかぁ?」
ネロの軽口に、ソルはまたため息を吐いた。
「そういう堅苦しいのは苦手なんだ、今まで通りで良い――。じゃあな、セリニ、また何かあったら呼んでくれ――」
そう言ってソルは、ネロと共に宰相の執務室を後にした。
城を出て、中庭を二人で歩いていると、ソルに向かってネロが声を掛けた。
「なぁなぁ、ソル。本当は姫様は生きてるんだろう? だってお前、全然落ち込んでないもん。俺にだけでも教えてくれよぉ」
「――さぁ、どうだろうな」
ソルは一度目を瞑り、また開く。
彼の碧の瞳は、空というよりもどこか遠くを見つめる――。
ティエラがいなくなったからと言って、彼女との想い出が消えるわけではない。
ソルは、これからも生涯、胸の内で愛し続けるだろう少女の幸せを願った。
※※※
オルビス・クラシオン王国とスフェラ公国の国境に位置する森の中にある一軒の小屋に、少し前から若い夫婦が棲みついている。
元は明らかに高貴な人物だと分かる二人の存在――しかも二人の年が明らかに一回り近く離れている――に、森の近くにある村の住人たちの中で、様々な憶測がとびかった。貴族の駆け落ちじゃないか、いや誘拐じゃないかと皆の間で噂になったが、二人の様子を見てから判断しようという話になった。
そのうち、二人とも穏やかで優しい人物で、愛し合っているのが分かったので駆け落ちだろうと結論付けた。
夫婦は、数月足らずで村に繁栄をもたらしてくれた。夫がとても賢い人物で、農作物やとれる鉱物について、土地の開拓の方法、商業について――様々な知識を、村人たちに指導してくれた。おかげで短期間のうちに、村は潤うようになった。
夫はいつもローブを纏っているのでその髪色や顔立ちは分からないが、覗く瞳はとても綺麗な蒼色をしていた。
臨月を迎えたと思われる妻の方は、王国では珍しくない亜麻色の長い髪に、それに似た色の瞳をした愛らしい女性だ。彼女の瞳が時折、金に見えるという者も中にはいた。
時折、夫婦が名前を呼び合うのや、夫が年下の妻に敬語を使う姿を目にした村人たちの中には、「彼らはもしや――?」と勘繰る人物もたまに現れた。しかし、最終的には村の恩人である彼らのことはそっとしておこうという話になるのだった。
※※※
森小屋の中にある部屋の暖炉の前で、女性が火に当たっていた。
彼女は椅子に座り、大きくなったお腹に手を当てて子守唄を歌っていた。
そんな彼女を見た白金色の髪をした青年に、幼い頃の記憶が蘇る。
『お母さんは、貴方を愛しているわ……ルーナ』
それまで忘れていた母の声――。
長い間愛して来た、少女から女性になった彼女と、これまでずっと忘れていた母の姿が重なる――。
いつの間にか、青年の蒼い瞳から涙が零れ落ちていた。
そんな彼に気づいた女性が、青年に近づく。
「どうしたの? ルーナ」
白金色の髪に蒼い瞳の青年ルーナは、婚約者のティエラ姫を助けた後、これまでと同様に、ずっと一人で生きて行くのだと思っていた――。
思い出だけで生きていけると、そう考えていた。
だけど本当は、気づかないように振る舞っていただけで、自分は彼女と共に生きたかった――。
夢が叶わなかったら怖いから、口に出して言わなかっただけだ。
彼女に勇気を出して想いを口にしたことで、本当は自分が、色々な人たちに愛されていたのだと気づかされた――。
どれだけ道を踏み外したのだとしても、ルーナの事を『弟』だと思って見守っていた人物たちがいたことにも気づいた。
自分の元からは去るだろうと思っていたティエラ姫は、今ルーナと共に地位を捨てて共に過ごしてくれている。
昔のように彼女に何か贈り物をしたりすることはできなくなった。元より、物よりも時間を彼女は欲していた事に気付けていなかった。
ルーナが地位も名誉もなくしても、それでも彼を見捨てず、ティエラはそばにいてくれる。一緒に罪を償おうと言ってくれる。
そんな彼女の指が、ルーナの頬に触れ、彼の涙を拭う。
そうしてティエラは柔らかく微笑んだ。
「やっぱり泣き虫ね、ルーナは」
幼い頃から変わらない彼女の優しさに、彼は再び涙を流し、彼女が自分のそばにいることの幸せを噛みしめる。
ルーナは、ティエラをお腹の子どもごと抱きしめる。
彼は再び決意する――。
とは言え、彼女が竜に喰われるという事実を知らされた際に抱いた、悲壮な決意とは違う――。
「昔、約束したように――私が家族になって、貴方様を必ずや幸せにします――生まれて来る子どもと共に」
「もうずっと昔から、私達は家族だったのよ、ルーナ。貴方がいなかったら、この子もいなかったわ。――ルーナ、産まれてきてくれて、ありがとう」
自分など産まれてこなければ良かったと、愛する彼女の邪魔にしかならないと、何度自分を責めただろう。
だけど、彼女が愛してくれたおかげで、産まれてこれたことを肯定できるようになった。
「ずっと愛しています、姫様――いえ、ティエラ」
ルーナはそっとティエラに口付けを落とす。
何もかも持っているようで、欲しい者が手に入らなかったルーナは、やっと本当に手にしたかった、家族を手に入れたのだった――。
これでルーナif完結となります。想像以上に長丁場になりまして、ご迷惑をおかけしました。ifまでお付き合いくださいまして、本当にありがとうございました。ブクマ・★評価してくださいましたら、作者の励みになります。
「癒し姫」の今後の予定としては、改稿(加筆修正)、後日談や番外編を時々投稿していこうと考えています。あとは需要があるのか分からないけれど、作者のあとがき・全体の登場人物総評・裏設定等々。そのため、ブクマ等はそのままでいてくださいましたら、助かります。
読んでる読者様で、このキャラどうなったの?という疑問等あれば、感想欄等にお気軽にご意見ください♪
希望があれば短編等も書いちゃいます(^ω^)
ちなみに3人エンドを友人に話したら止められました←
ティエラ・ソル・ルーナが主になる話は、このままこの「癒し姫」に投稿していきます。それ以外のキャラがメインになりそうな時は、別の作品として作成して投稿いたします。
先週短編で投稿したティエラとソルの後日談4は、また数日内に掲載します。後日談4全体はおそらく2~5万字程度で、加筆修正して書き上げたら一気に投稿しようかなと思います(5月中)。短編につきましては下部にリンク張っています、お時間おありの方はどうぞよろしくお願い致します)。
後日談5は、蒼星のセレスにてソルとティエラが出て来る箇所があるので、そこを通過したら投稿します(6月中)。
あとは運営様に相談していて、再掲できるならムーンに加筆して投稿する可能性もあります。両方投稿が難しいようだったら、ムーンは諦めます。
カクヨム様でも投稿の可能性があり、現在検討中です。
これからもお付き合いいただければ幸いです。




