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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第1部 月の章

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第23話 新月の前夜2

6/18文章の見直しをしました。

 

 しばらくすると、ルーナは落ち着きを取り戻した。

 横たわるティエラからゆっくりと離れ、彼はベッドに腰かける。

 彼女は体を起こすと、ルーナの背にそっと両手で触れた。そうして彼に、身体を預ける。


「以前も伝えましたが……私がルーナを嫌いになることはありません」


 だから安心してほしい――。


 そうティエラは伝えようとしたのだが――。


「嫌いになることがないだけ……なのでしょう」


(――――!)


 ルーナが悲しんでいることが、彼の背中越しにティエラには伝わってくる――。


「貴女が、私を特別に好いてくれたことなど……」


(え――――?)


 ルーナはその場に立ち上がった――。

 ティエラは顔を上げる。


「そんなこと……!」


(そんなことはない……!)


 ルーナにそう伝えたかった。


 断片的な記憶や日記帳の記載。


 昔のティエラが、ルーナに好意を抱いていたのが十分伝わってくる内容だった。


(確かに、恋愛感情だったのかは分からないわ――)


 けれども――。


(少なくとも、記憶を失った後の私は、ルーナに恋をしている……)


 ルーナに逢えると嬉しくなるし、他の女性との彼の噂を聞くと胸が苦しくなる。

 時々、彼が怖いと思うこともある。だけど、ルーナの様子がおかしくなるのは、ティエラがルーナに心配をかけた時だけだ――。


(まだ、私のルーナへの対応が下手なだけよ――)


 記憶を取り戻したとして――。


(混乱はするだろうけど、ルーナのことを好きだという気持ちは変わらずに残ると思う――)


 だけれど、うまくそのことを、ティエラはルーナに伝えることが出来なかった。


「私は姫様に愛されたい。嫌われたくはない……私だけを見てほしい……私だけのものになってほしい……」


 ルーナが俯きながら独白する。


(ルーナ、ひどく苦しそう――)


 またルーナが泣いていることに、ティエラは気付く。

 彼女はベッドに膝をついたまま、ルーナの背中を抱き締めた。


「ルーナは泣き虫ですね」


 ティエラの言葉に対し、ルーナが振り返る――。


「きゃっ――!」


 彼が振り返った反動で、また二人してベッドに倒れこんでしまった。そのまま、ティエラはルーナの胸の中に引き寄せられる。


「昔、まだ幼い頃の貴女が、私にそう言ってくださったことがありました……」


 ルーナとの間にある過去――。


(思い出すことが出来ない――)


 けれども、ルーナはひどく嬉しそうだった。


「貴女がいて下さったから、私はここまで生きてこれました」


 愛おしそうに、ティエラの髪にルーナは指を絡めた。そうして、彼女の髪を一房手に取り、彼は口付ける。


「それなのに、私は……」


 そう言ったまま、ルーナは何も言わなくなった。


(ルーナ……?)


 彼は、寝息を立てて眠ってしまっていた。


 ルーナはもう一月以上、城に一人で結界を張り続けている。それに加えて執務もこなしているのだから、疲れが限界にまで達したのだろう。

 ルーナの腕から出ようとティエラは試みる。


(ルーナは眠っているのに……力が強くて抜け出すことは出来ないわ――)

 

 眠る彼も、彫像のように美しかった。

 さらさらとした白金色の髪を、ティエラは撫ぜる。


「おやすみなさい」


 抱き締めてくるルーナはとても暖かくて、ひどく心地が良い。


 ティエラにも、すぐに眠りが訪れた――。




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