影は微睡む3
ごめんなさい、3で終われませんでした。
4まで書いて本編に戻ります。
ウムブラの部屋のバルコニーに、彼の友人であるヘリオスが現れた。
ちょうど風が吹き、ヘリオスのやや短い紅髪とウムブラの肩先まである黒髪を揺らす。
ヘリオスの言葉を理解するのに、ウムブラはかなりの時間がかかっていた。
「シルワ姫と城を出る……? どういう意味だ……?」
なんとかウムブラが言葉を継いだ。
ウムブラの問いに対するヘリオスの答えは、あっさりしていた。
「言葉通りの意味だ」
「結婚を反対されでもしたのか……?」
ウムブラの問いかけに、ヘリオスは首を横に振る。
「もう二度と、お前と会うこともないかもしれない……」
「もう二度と……?」
それはつまり――?
二人で城の外に遊びに行くという意味ならどれだけ良かっただろう。
ウムブラの背筋に寒気が走った。
「理由……理由は何なんだ?」
愕然とするウムブラは途切れ途切れになりながら、友へと問いかける。
相対するヘリオスは、目蓋を閉じて静かに答える。
「愛する彼女を護るためなら、国を裏切ることも怖くない」
ヘリオスはゆっくりと瞳を開けて、ウムブラに告げた。その碧の瞳には、決意が宿っているようだとウムブラは思った。
「これ以上は、知ればお前にも迷惑がかかる……本当は何も言わずに出ていくつもりだったが……」
ヘリオスは目を細め、唇を綻ばせるとこう言った。
「ウムブラ、お前は本心をよく隠す……きっといつか、お前の心に気付ける友にまた巡り会えるはずだ」
そう言い残し、ヘリオスは城から去っていった。
※※※
後日、オルビス・クラシオン王家は、シルワ姫が病死、ヘリオスが事故死したと発表した。
だが、明らかに嘘だとウムブラには分かった。
神器の一族を畏怖する人々は、王家の言うことを一旦は皆受け入れる。
だが、聡いものは気付く。
恋人同士だったシルワ姫とヘリオスが同時にいなくなった本当の理由があるのではないかと――。
玉の一族の権勢が強まり、剣の一族の発言権が弱まった。
隠蔽する王家――。
(なぜ、ヘリオスは死ななければいけなかった?)
真実を知りたい。
そのためなら、自分を偽ることも厭わなかった。
彼は、喋り方も変えた。他者に真意を悟らせないために――。
ウムブラは手段を選ばなくなった。
登り詰め、友の死の真相を知るために――。
家族の消息を探りながら、ウムブラは影で努力を続けた。
※※※
後年、ヘリオスの甥のソルはヘリオスに、新しく生まれたティエラ姫はシルワ姫に、それぞれよく似ていった。
時折、彼らを見るとウムブラの中に懐かしさと共に、彼等に悲劇的な未来が見えるようだった。
ウムブラはというと、才能に嫉妬していたルーナ・セレーネの従者になった。ルーナはティエラ姫の婚約者に抜擢された。表面上は姫に優しいルーナだったが、時折虫でも見るかのように彼女の事を見ていることにウムブラは気づいていた。
本心を隠すルーナは、まるで自分を見ているようで……彼と自分への嫌悪が次第に沸いていった。
※※※
そんなある日、探していた妹を貧民街の視察の際に見つけた。
母の面影を残していたし、名前も同じ。
生き別れていた妹にやっと会えたと思ったのに――。
(よりにもよって、娼館に……)
おそらく父親が金欲しさに、彼女を売ったのだろう。
一刻も早く妹を取り戻したかったがウムブラには金が足りなかった。




