第140話 太陽の覚悟に月は対峙する
いつもより長文になりました(>_<)
どうぞよろしくお願いいたします♪
ソルとルーナの視点が入れ替わります。
城門前の広場にて、ソルとルーナは手合わせを行うことになった。
二人の長剣とレイピアが重なる。どちらの刀身も月に照らされ、銀の光を反射させた。
二人は、距離をとるために離れる。
そして、どちらからともなく撃ち合いが始まった。
※※※
ソルは、これまでにルーナに一対一で戦って勝ったことがない。
一応勝ったことになっている試合もある。剣の守護者が弱いと国民に示しがつかないからと、御前試合で手を抜かれた時の事だ。
神剣の加護を受けているのだから、ルーナよりも身体能力は向上した上で、この有り様だ。
本当は自分なんか要らないんじゃないか?
そう思う事があった。
ティエラの護衛騎士に任じられているのに、魔術師であるルーナよりも強くはない。
何もかもルーナに負けている。
おそらくティエラへ抱く想いさえも――。
彼女に力を分け与える位しか、彼女にとって価値がないのではないか?
ルーナへの劣等感は日に日に募っていった。
※※※
ソルが振り下ろす剣を、ルーナはしなやかにかわす。
ここまではいつもの流れと変わりがない。
けれども今日は違う。
剣を合わせれば、いつもルーナがソルを挑発するからのように何か話してくるが、今日の彼は言葉を発することがなかった。
暗闇の中、剣がぶつかる音が風に乗って響く。
今のところ、ほぼ互角だ。
※※※
ソルは剣を撃ち込みながら考えていた。
ずっと心のどこかに後ろめたさがあった。
自分は、幼いティエラとルーナが交わした約束の内容を知っている。
ティエラとルーナが、自分の父親であるイリョスと、どこかから帰ってきた事があった。
『ソル……ルーナは大丈夫? 私、ルーナと約束したの……家族になって幸せになるって……だから早く良くなって、彼を安心させたい……』
自分の手を握りながら、そう話したティエラに愕然とした。
当時、自分は彼女を妹のように思っていて、彼女から自分は家族だとは思われていないのだと寂しさがあった。
しばらくすると、ルーナが宝玉の力でティエラの記憶を部分的に封じた。
彼女はルーナとの約束を忘れた。
きっと思い出せば、彼女はルーナを選ぶ。
ルーナに勝てている箇所など、自分にはほとんどない。
だからこそ、ティエラに約束の話を教えることはなかった。
ソルは剣の柄を握り直す。
そうしてルーナに向かって叫んだ。
「ルーナ、様子見のつもりか!? だったら、俺をなめすぎだ……!」
※※※
(私が、珍しく押されているな)
目に見えて、ソルの剣を振るう速度が増した。動きも目で追うので精一杯だ。
ルーナは、ソルから撃ち込まれる剣を払う。
攻めに転じたいが、なかなかソルに隙が見つけられない。
これまでソルと剣を合わせたことは何度かある。
今まですぐに感情的になる彼を相手にするのは容易かった。
だが今日は一筋縄ではいかない。
再開した時の挑発に乗ることもなかった。
ソルの碧の瞳に、何か覚悟のようなものが見えた。
(この男は剣の守護者だ、本来強くなければおかしい)
戦時の話の報告を従兄弟であるセリニから聞かされたことがある。
さながら鬼神のごとく、何かに憑かれたかのように敵を倒していったと――。
だが戦を経て、ソルに元々あった心の強さが消えてしまった。
ティエラの献身的な世話でなんとか回復した彼だったが、完全に元に戻ったとは言い難かった。
闘っても、躊躇いや手加減をするようになっていた。
ティエラに愛されるうちに、ソルは彼女に甘えて本来の強さを失っていった。
けれども今の彼はどうだろうか?
(昔の強さが戻ってきた――いや、昔以上に強い――?)
ルーナが細剣を突き出すも、ソルに届くことがない。
自分の全ての動きを先回りされているようにも感じる。
繰り出される剣が重すぎる。
こんなに何度も柄を握り直したこともない。
この男の父親であるイリョスに、剣を教わったことがある。
(イリョス殿と互角――? いや、まさか――?)
彼の大剣でもあり得ない程の力が、ルーナの細剣越しに伝わってくる。
(このままでは、私が負ける――)
ルーナの額から汗が流れた。
(私が――? だが、この男の強さ、今までの――)
――比ではない。
(一撃一撃が、重すぎる――)
ソルの強さが、明らかに今までルーナが知るソルの強さではなかった。
息が上がってきている。
(姫様がまた、この男の元に帰ってしまう――)
彼に初めて焦りが生まれていた。
※※※
五感が研ぎ澄まされている。
目の前で闘うルーナの動きは鈍く再生されているかのように見えた。
昼間、ソルの元に現れたウムブラとの会話を思い出す。
「ソル様はヘリオスのように、国に背いてでもティエラ様を手に入れようとはされないのですよね?」
自分がもがいたとしても、国の定めだ。ティエラはルーナと添い遂げるだろう。
そんな思いが自分のどこかにあって、ティエラの気持ちにちゃんと向き合ってはこなかった。
(ティエラははずっと、俺が動くのを待ってくれていたはずなのに――)
『ルーナが婚約者だって分かってる。私はルーナの事が好き……彼の事を嫌いになることもないわ……だけど……だけど! それ以上に、ソル、貴方の事が好きなの……!』
彼女は婚約者を裏切る真似だと分かっていても自分の事が好きだと伝えてきていたのに、自分が彼女に好きだと想いを伝えたことはない。
戦争から帰ってきて以来、彼女の愛情を一方的に受け続けていただけだ。
本当は彼女を求めているのは自分の方なのに、いつも彼女が自分を求めてくるのを待っていた。
言い逃れが出来る状態にしたかったと、他から言われてもおかしくはなかった。
結局、叔父のように国に背く覚悟もない臆病者だった。
玉の一族に比べ剣の一族の権力が弱い。
叔父ヘリオスの件があるから。
一族の跡継ぎだから、婿養子に入れない。
全て、ティエラがルーナを選んだ時に自分が傷つかないようにする言い訳だ。
ティエラが愛しいと、彼女と添い遂げたいと、国王に伝える勇気もなかった。
優しい彼なら分かってくれたかもしれなかったのに――。
ティエラが記憶を忘れた時に、忘れたままでいてくれた方が良いと願った自分もいる。その方が、自分にとって都合が良かったに過ぎない。
一度迎えに行ったにも関わらず、彼女が城に連れ戻されるまで、時間はあったはずなのにはっきりした態度をとることが出来なかった。
ティエラの気持ちは手にしたままでいたい、だけど国に背くことも出来ない。
そして心のどこかに、ルーナなら何とかしてティエラを助けてくれるのではないかという甘えがあった。
全てが半端だったからこそ、神剣も折れてしまった。
(そんな中途半端な俺じゃ、ティエラに相応しくない、ルーナにも負けて当然だ)
ソルはルーナの視線を正面から受け止める。
珍しくルーナの焦燥を感じた。
そのままレイピアの刀身に刃をぶつける。
これまでの自身の想い全てを伝えるために――。
ルーナの細剣が、彼の手元から離れた――。
※※※
(負けた――)
ルーナは跪き、呼吸を整えながら、ソルを見上げた。
ソルの覚悟の強さ。
――ルーナはソルの覚悟の前に敗けを喫してしまった。
「剣に迷いが見えた――。あんたでも感情的になることがあるんだな」
ソルに話しかけられる。
この男にそんなことを言われる日が来るとは思ってもみなかった。
「せっかく手にいれたティエラの心を、手放すのが怖くなったのか?」
ルーナはソルから視線をそらした。
ソルは話を続けた。
「俺は覚悟を決めた」
彼の言葉を聞いて、ルーナは心臓が止まるかと思った。
(また姫様が、ソルのところに行ってしまう――)
先日まで、それで良いと思っていた。
ティエラがソルを愛しているのなら、二人が添い遂げることが出来る未来を作ろうと……。
自分には失うものは何もない。
竜と共に消えてしまえば、それで楽になれると――。
だけど一度でも愛する彼女の心を手にしてしまった以上、それを手離すのが怖くなった。
それに新しく手にするものもある。
護るものが増えて強くなければならないのに、逆に弱くなってしまった――。
(こんな私では、姫様に――)
「ルーナ! ソル――!」
そこにティエラが走り寄って来るのが目に入った。
※※※
「姫様、走られては――」
ルーナはまだ息が上がっていて、それ以上言葉にすることが出来なかった。
(無様だな……)
彼は自分で自分を嘲笑った。
(きっと姫様は、私ではなくソルの元に――)
「ルーナ……!」
だが、真っ先にティエラが向かってきたのはルーナの元だった。
ティエラはその場に腰を落とし、ルーナの肩に手をやり、彼を心配そうに覗きこむ。
「ルーナ、大丈夫?」
そう言うティエラの心情をはかりかねていると、彼女はソルの方を振り向いた。
「ごめんなさい……ソル。……私、ルーナを一人にはしておけない……! 貴方には家族や、私以外にも支えてくれる色々な人がそばにいるわ……!」
振り絞るようにして、彼女はソルに思いを告げる。
彼女の金の瞳からは涙が溢れていた。
ソルは、ティエラの決意を黙って聞いていた。
「だけど、ルーナの家族は私しかいない。そんなルーナを、私はずっと一人きりにさせてしまった……そして彼に行き場を失わせてしまった……! これからはこの人のことをしっかり見つめて、一緒に歩んでいきたいの……!」
「姫様……」
ルーナは、ティエラの言葉を聞いて目を見開いた。
しばらくソルは何も話さなかった。
そして、ゆっくりと口を開く。
「ティエラ、あんたがどんなことになっても見届ける。自分で決めていたのに、そんな決意を俺は戦場に置き忘れてしまった――」
ソルは続けた。
「あんたが幸せなら、俺もそれが良い」
ティエラは何も言わず、涙を流し続けている。
「親父から聞いて、鍛冶師のシデラスに、今剣を打ち直してもらっている。出来次第、またお前たちの元に帰ってくる」
それだけ告げると、ソルは二人に背を向け、城の外へと向かう。
「さようなら、ソル。貴方のこと、愛していたわ……」
ティエラの言葉に、ソルは振り向かずに去っていった。
夜が明けようとしている。
顔を出した太陽が、ソルの紅い髪を照らし、その色の濃さを増していた。
しばらくティエラもルーナもその場から動けなかった。
ティエラがルーナへと視線を戻す。
「ルーナ、絶対に生きて。一人で抱え込んで、勝手に死のうとしないで……お願いだから、私を一人にしないで」
ティエラはルーナの考えに気づいたのだろうか?
自分を犠牲にして全てを解決しようとしていた考えに――。
「――はい」
一言だけそう口にした後、ルーナは涙を流すティエラをそっと抱き寄せたのだった。
かなり気を遣った回でした……。
恋愛の相手役は弱いところが見え、恋敵の方はカッコ良く見えるように意図して書いています。ソルが本編よりもカッコ良く見えてたら嬉しいのですが(^^)
あとは竜との戦いで、本編とは少し違う展開にしようと思っています。少し丁寧に書きたい箇所で、一旦休載にしてまた連載再開します。休載と言っても、遅くとも4/19(金)頃には再開します♪
ソルを書いてたら、久しぶりにティエラとソルの話を書きたくなり、後日談3を思い付きましたので、その投稿まで行ってからしばらく休みます(予定してる後日談は4に繰り下げ)。
これからもお付き合いくだされば幸いです。




