第134話 初めての夜※R15
性的な描写が入ります。だけどかなり省略したので要らないかな?とは思いましたが、※R15つけています。苦手な人はスキップしてください。
あれは、自分が陛下を手にかける数日前の事だ。
「ねえ、ルーナ。もし万が一、君とティエラの両方が生き延びることができたなら、君はどうするつもりなの?」
ルーナは、病床にある国王陛下から声を掛けられた。
彼はひどくやつれて、生気が失われかけている。
もう彼の命も残り短い。
ティエラとルーナの二人。どちらも生き延びる道は、限りなく少ないとルーナは思っている。
彼女が生きるためなら、自分は何でもするつもりだった。
ルーナは、封印されている竜と血のつながりのある月の化身の先祖返りと言われている。そのため、自分の身体は竜との親和性が高いらしい。偽の神器の力が及ばないならば、最終的には自身の身体に竜を閉じ込めて、共に滅びようと考えている。
国王や大公も、最初からそのつもりだったらしい。
つくづく、誰かに利用される人生だと思わなくもないが、自身の身体に彼女のためになるような利用価値があるのならばそれでも良いかと考えている。
「……ないとは思いますが、姫様のことはソルに任せて……。私は……」
どうしようか?
彼女がそばにいない人生など考えられない。
仮にティエラが竜に喰われたとしたら、自ら命を絶つ気がする。
彼女を生き延びさせるために、そのまま死ぬつもりだった。
もし二人とも生きたら?
国王がルーナに話を続けた。
「ちゃんと二人で話し合って、今後の事は決めるんだよ」
「話し合って、ですか?」
これまで自分なりに考えて彼女と話してきたが、ことごとく失敗してきたので、どうにもうまく行く気はしない。
「ティエラはソルの事が好きみたいだ。君がそんな娘の気持ちを優先してくれようとしていることも知っている。だけどルーナ、君が考えている以上に、ティエラは君のことも大切に思っているよ」
国王陛下はそう言うが、ルーナとしては気休めにしか聞こえなかった。
ルーナは曖昧に笑って返した。
「君は器用なようで不器用だから、義父としては心配だな。夫婦として共に生きていく人は、恋する相手だけではないのだから。ルーナはソルに遠慮ばかりしないで、君は君の幸せを探して良いんだ……。君を利用しようとする私が言う言葉ではないがね……」
苦しそうに国王陛下が咳き込んだ。それでもなお言葉を継ぐ。
「僕は君のことも、ソルのことも、自分の子どもように思っているよ……。僕は、娘を幸せにしてくれるなら、どちらと夫婦になってくれても良いんだ。出来たら僕も、娘と君たちどちらかの――」
※※※
「ルーナとの約束……」
先程まで、オルドーをはじめとしたお世話係数名がティエラの元に滞在していた。
ティエラの部屋の中に大きな風呂桶が持ち込まれたかと思えば、湯浴みの際に何やらいつもよりも入念に身体を磨かれた。
今は就寝用のドレスを身に纏っている。薄手の生地で出来ており、デコルテが広くて前開きのドレスを着ている。開けた部分にはリボンが通っており、胸元で結ばれている。肩口がなくて寒いので、いつも使っているショールを羽織っていた。
その後バルコニーへと出たティエラは、夜風に当たって過ごしていた。
部屋から出られず時間だけがあるので、約束の内容を思い出そうとしたが、どれだけ頭を絞っても浮かんでは来なかった。
(ルーナ本人に話を聞くのが早い気がする)
昨日、自分の想いをティエラに教えてくれたルーナ。
今日も彼に尋ねれば、ちゃんと教えてくれる気がしている。
ティエラとしても、彼女なりにルーナが幸せになれる方法がないかを考えている。そのことを伝えて、誠意を示そうとは思っていた。
「湯を浴びた後に外に出られては、お風邪を召されますよ」
ティエラの背後から、突然声が聞こえた。
振り返った彼女は、自身の婚約者の名を呼んだ。
「ルーナ」
現れた彼の白金色の髪が、月に照らされて輝きを帯びていた。
ルーナに対してティエラは微笑みかけた。
「貴方に会いたかったわ」
※※※
月夜に照らされる婚約者の姿が、ルーナにはとても神々しく見えた。
ティエラが子どもの頃からしてきたように、彼は彼女の体を横抱きにして持ち上げた。
ティエラが驚いたようにして、ルーナの顔をまじまじと見ている。
彼女を抱きかかえたまま、寝台に連れて歩いた。
「ルーナから見たら、まだ私は子どもかもしれないけれど、私なりに貴方が幸せになる道を考えているわ」
彼女の声音が優しい。
自分の事を考えてくれていたのかと思うと、嬉しくてそれだけで胸がいっぱいになる。
『ルーナ、私、早く大人になりたいわ』
あれはいつだったか、義兄が宰相に就任した前後、よくティエラが口にしていた言葉だ。
無理して背伸びをしようとしている彼女のことを、ルーナはちゃんと覚えている。
「姫様、私としても、貴女様には本当はゆっくり大人になってほしいのですが……少しだけ状況が変わりました」
※※※
ティエラは、ルーナにゆっくりと寝台に降ろされた。
彼が言った言葉の真意を図りかねて、困惑する。
「どういう意味……?」
ティエラの問いに答える前に、ルーナに唇を塞がれた。
突然の出来事に、彼女は狼狽える。
「待って……」
いつの間にかドレスのリボンを解かれ、露になった肌へと口付けられていた。
「貴方、好きな人が……」
『――私は、愛する人と幸せに……なりたいのです』
昨日のルーナの言葉が頭をよぎる。
あれは彼の本心だとそう思っていた。
(あれは、嘘だったの――?)
彼女の胸を這うルーナの頭を、ティエラは掴んで引きはがそうしたが、抵抗むなしく彼が行為を辞めることはない。
「ルーナ……っ……お願い……!」
『これ以上は辞めて』
そう伝えたかったが、言葉にならない。
彼の舌先が触れる場所から全身に痺れが走り、身体が仰け反ってしまった。服がはだけた背をルーナの手がなぞるのにも反応した。
どうにかしないととは思うものの、思考がままならなくなってくる。
胸元から離れ、少しだけ身体を起こしたルーナが、次にティエラの唇を一度塞ぎ、すぐに離れた。
「ティエラ」
いつも「姫様」と呼ぶ彼が、自身の名を呼んだことに彼女は驚く。
眼前で彼から告げられる。
「私に、貴女の婚約者としての役割を果たさせてください」
そう言うや、また彼は彼女に口づける。彼女の口内にルーナの舌が入り込んで来た。
しばらくして離れた彼の吐く息が熱くて、頭がくらくらしてきた。
「ルーナ――」
かろうじて彼の名を呼ぶことができた。
かれどもそれ以上、彼女が彼の名を呼ぶのは難しくなった。




