第133話 思い出せない月との約束
今日からまた、オルドーがティエラのお世話係になった。
「オルドー、久しぶりね」
ティエラは幼少期、いつも彼女に世話をしてもらっていた。そのため、ティエラとしては彼女を姉のように慕っていたことを覚えている。
しばらくこれまでの話に花を咲かせた後、やはりと言って良いか、彼女の弟であるソルの話題が出てきた。
ティエラがソルを心配していたからか、オルドーからは励ましの言葉を得る。
「姫様に心配していただけて、弟も喜んでいると思いますわ」
オルドーの微笑みに、つられてティエラも笑みを浮かべた。
(ソルならきっと大丈夫だって信じている)
ソルは剣の守護者だ。必要に刈られて戦争に出た結果、心に傷を負ってしまった。
ティエラの献身的な世話や、友人達や大人達からの励ましにより、次第に彼は元の元気な彼へと戻っていった。
もっとも、悪夢にうなされたり、発作が起こったりするのは今も続いてはいる。
だけど、彼は周囲の人々に慕われ、そして恵まれていると思う。
(きっと私がいなくても、皆がソルを支えてくれるはず――)
ティエラは自分にそう言い聞かせる。
オルドーが続けた。
「姫様も、ルーナ様とのお約束がついに叶われる時が来ましたものね」
「私とルーナとの約束……?」
にこやかにティエラに話しかけてきたオルドーだったが、何の話なのかがよく分からなかった。
二日前に城に帰ってきた時に、ルーナとティエラが交わした約束ではないはずだ。
(何だろう……?)
頭に靄がかかったようで思い出すことが出来ない。
「以前、私が城にいた頃に姫様が話されていたのです。姫様がうなされていた時がございまして……。私と弟も、姫様から約束の件を聞いていたのですが……」
「私が寝込んで……?」
そこまで話をした後に、オルドーが「いけない!」と声を上げた。
「ちょっと別件を頼まれていたのでした。少し席を外しますね!」
そう言って、オルドーは忙しなく部屋を退室していった。
自分の世話以外の別件とは何だろうかと気になりつつも、ティエラは彼女の背を見送った。
やはり、ルーナに関して思い出さなければならないことはありそうだ。
彼の所持する宝玉に触れさえすれば、記憶は戻るのだろうが、今どこにあるかも分からないし、部屋から出ることが出来ない。
「約束」
自分は、大事な何かを忘れてしまっている気がする。
ティエラの心の内を、何か言い様のない切ない気持ちが支配した。




