第132話 月は別の道を探す
ソルの姉であるオルドー。
彼女がこれまでに剣の神器から受けてきた加護について、ルーナは聞き出していた。
「――そうですわね、結婚しても特には失くならなかったのですが……。ルーナ様の仰る通りかもしれませんわね」
オルドーはにこやかにルーナへ返した。
「あら? でもそうなると、姫様はどうなるのかしら? 建国以来、初めて女性の守護者様でしょう? 初代の方が女性だったという話もあるけれど、はっきりしないのでしたっけ?」
彼女の問いに、ルーナは首肯した。
神器に関して、守護者でもよく分かっていない事がある。
ある程度、聞きたいことを尋ねることは出来た。
「オルドー様、良ければ姫様にはご内密に。彼女にははっきり分かってから伝えようと思っています」
オルドーは「わかりましたわ」と答えた。そうして続ける。
「姫様にも国にも関わることですもの。もうすぐご結婚ですし、ルーナ様としては気になりますよね」
ルーナは曖昧に笑って返した。
そうして二人は会話を終え、オルドーはルーナの執務室から去った。
まだ問題はいくつか残っている。
ティエラに関しても、剣の守護者についても、自分の身体のことも――。
国王が、あえて婚約者のルーナに伝えていなかったのには、何かしらの不都合がある可能性がある。
「あとは――」
最低限、もう一人だけ、確認しておきたい人がいる。
――剣の一族に護られている老人。
ティエラに送った贈り物が壊れた時に、修理のために城に彼を呼んだことがある。
あの時、ルーナは彼の正体について、なんとなく気づいてしまい、国王に問いかけたことがあった。
現在その事を知っているのは、守護者であるルーナ、前守護者であるイリョス・ソラーレだけだ。
「姫様に生きていてもらえるのなら……」
彼女の未来に繋がるのなら……。
ティエラが十七の誕生日を迎える前に、全ての可能性を試しておきたい。
だが、彼女はどう思うだろうか?
せっかく彼女が、貴方の幸せに協力したいと言ってくれたのに――。
「いや、だからこそ」
月の化身の先祖返りとされる自分。
その類いまれなる美貌と力を持って生まれたせいで、子どもの頃から翻弄されてきた。
だけど、そんな自分にも利用価値はあった――。
血の近い竜との親和性が高いこと。
そのおかげで、自分ごと竜を偽の神器で封じる計画を進める事が出来た。
でも、もし彼女が自分と共に生きる未来を欲してくれているのなら。
仮に自分が死んだとしても、彼女と共に――。
「早ければ今夜にでも……」
そこまで考えて、ルーナは鍛冶師である老人の元に向かった。




