第131話 月が招くは
「ルーナ様、お久しぶりにございます」
「オルドー様、こちらこそ。お元気でしたか?」
ルーナが城に招いたのは、紅い髪に碧の瞳をした女性――オルドー・ソラーレだった。彼はティエラの護衛騎士を勤めるソルの姉でもある。
彼女が結婚し妊娠するまでは、城でティエラの世話をしていた。オルドーが城を出た後は、ヘンゼルとグレーテル姉妹がティエラの世話を引き継いだ。そんな彼女達も今は城を不在にしたり、他の任務に当たったりしている。
そのため、引退し子供を育てていたオルドーをティエラのお世話係として復帰してもらうことにした。
もちろん、オルドーの父である騎士団長イリョス・ソラーレに言うことを聞いてもらうための人質でもある。
(オルドー様が戻れば、姫様も喜ぶに違いない)
そう思うと、ルーナは自然と笑みがこぼれた。
彼は、自身がティエラを部屋に閉じ込め、彼女の自由を奪ってしまっていることも十分承知している。
それでも、やはり彼女が微笑む姿を想像するだけで嬉しくなる。
スフェラ公国との闘いを経るまでは、ティエラに何かしてあげるととても喜んでくれていた。
(貴方が幸せになるのに協力したいと彼女は言ってくれた)
彼女が少女の頃のように、自分に振る舞ってくれるかもしれないと思うと心が弾む。
考え事をしているルーナに、オルドーが声を掛けた。
「また姫様のお世話が出来るのは嬉しいですわ。ただ、ソルは大丈夫なのでしょうか?」
「今は休んでいるようですよ。我々の式の頃には元気になっていると思います」
ソルについては、適当な理由をつけて返答することにした。
本当の理由を話せば、オルドーからも反発を買うだけだ。
「それではよろしくお願いいたします。ではさっそく姫様の元へ――」
彼女は踵を返し、宰相の執務室から出ようとする。その背に、ルーナが声を掛けた。
「オルドー様、貴女の受けてきた神器からの加護について御質問がございます」
呼び止められたオルドーはきょとんとした表情を浮かべていた。
少しだけ、嫌いなあの男に顔が似ている。
「加護について、ですか?」
「はい、女性が受ける加護について知りたいのですが――」




