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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第1部 月の章

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第20話 月に思いを馳せる

6/16文章の見直しをしました。

 



 新月の夜が近づいてきたある日――。

 記憶の手掛かりとなった日記帳を、ティエラはめくっていた。


(この前、日記帳を読んで昔のことを思い出して以来、記憶は戻っていない――)


 彼女が何かを思い出そうとすると、いつも決まって頭痛が起きてしまう。そうしてそれ以上、記憶を辿ることが出来なくなっていた。


(やっぱり、塔に安置されている宝玉に近付くしかない――)


 ティエラは決心していた。


 どういう結末になろうとも、覚悟は決めている。


(もしも、ルーナが私に嘘をついているのだとしても――)


 「何があっても貴方を嫌いにはなれない」とルーナに告げた日。

 あの日以来、毎夜ルーナがティエラの元に訪室するのは変わらない。


(ただ、以前よりもルーナがさらに過保護になったような気がするわ……)


 少しだけ記憶を取り戻していることや、新月の夜に塔に行こう考えていることについて、ティエラはルーナには黙っていた。


(罪悪感がないとは言えない。だけど、記憶が戻ったとは言え、本当に少しだから、ルーナに知らせなくても良いはず……)


 ティエラは、自分にそう言い聞かせていた。


 ふと――。


(この日記帳の背表紙、やけに厚いわね――何かしら?)


 彼女が背表紙に手を触れた時――。


「姫様、失礼致します」


 ――部屋の扉を叩く音と共に、声が聞こえた。


 ティエラの身体はびくりと震えた。


「……は、はい。どうぞ中へ――」


 部屋の中に入ってきたのは、ティエラの世話を担っているヘンゼルだった。

 ティエラは、さっと枕の裏に日記帳を隠す。


「どうしたの、ヘンゼル?」


「いつものように、ティエラ様の朝の身支度のために参りました」


 ヘンゼルは、淡い紫色のドレスを手に抱えていた。

 彼女はいつものように、手際よくティエラのコルセットを締め付ける――。

 そんな中、ティエラはヘンゼルに問いかけた。


「ルーナの女性に対しての態度を知りたいのです……彼は、誰に対しても優しいのですか……?」


「え――?」


(想像とは違う内容だったのかしら――?)


 ヘンゼルは怪訝な表情を浮かべていた。そして彼女は少し思案した後に、ティエラに返事をする。


「姫様のおっしゃる通り、誰に対してもお優しいところが、ルーナ様には確かにございますわね……」


(やっぱりそうなのね――)


 ティエラはがっかりしてしまった。

 やはり、ルーナは誰にでも優しいようだ。


(私以外の他の女性等にも、甘い言葉をかけたりするのかしら……)

 

 ティエラの心が千々に乱れているところに、ヘンゼルが続ける。


「他の女性にも優しいですが、姫様に対してだけ異常に甘いですね」


(私にだけ甘い――)


 ティエラの心は少しだけ明るくなった。

 一方、何やら思い出しながら、ヘンゼルはため息をつく。


「ルーナ様に声をかける女性は可哀想と言わざるを……それに……」


 ティエラはヘンゼルの話に、真剣に耳を傾けた。

 気づけば、ティエラは着替え終わっている。

 腰のリボンを整えながら、ヘンゼルは続きを口にした。


「姫様に仇なすとみなされた方に対しては、女性であっても、やりすぎじゃないかというぐらい……かなり厳しくいらっしゃいます……喋りすぎましたね……」


 少しだけ憂いを帯びた表情をしながら、ヘンゼルは部屋を去った。


(『厳しいルーナ』……バルコニーでの彼は、確かに怖かったわ……)


 まだ知らない一面がルーナにはあるのかもしれないと、ティエラは思ったのだった――。





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