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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第5部 月華・玉の章(if)

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第128話 月に問いかける





「ルーナ……」


 白いドレスの前に立ち、泣いていたティエラの前にルーナが現れた。彼女は慌てて目尻を手で拭う。

 ルーナが心配そうに彼女を覗いてきた。


「泣いていらっしゃったのですか?」


 ティエラは隠していてもしょうがいないと思い、こくりと頷いた。


「ソルの事を思い出されていたのですか?」


「え、ええ、少しだけ……」


 ソルとルーナ。どちらかと言えば、ティエラはルーナに関しての記憶を思い出していた。だが、ソルについて思い出していたのも事実だ。

 

「姫様、ここにいる間は私だけを見てくださると約束なさいませんでしたか?」


 ティエラに、いつもより低いルーナの声が耳に届いた。彼の棘のある言い方にも、ティエラは引っ掛かりを覚える。

 ティエラがルーナに視線を向けると、彼の蒼い眼が陰りを帯びているのが目に入った。

 

(まただわ……)


 普段は優しいのに、突然人が変わったような時がある。

 こういう時、ティエラは彼のことが怖いと感じる。

 感情のふり幅が激しいとでも言うのだろうか……。


 しかし、以前のように怯えてばかりもいられない。

 彼と向き合うためにここに戻って来たのだから。

 ルーナの冷たい瞳を受けながら、ティエラは彼に伝えた。



「確かにソルのことを思い出していたわ。ただ、その……これを貰った時、本当に嬉しかったことを思い出していたの」


 彼女は、そっと白いドレスに飾ってある薔薇の形をしたコサージュに触れた。

 ルーナに視線を戻す。揺れる彼の蒼い瞳が、ティエラの目に映る。

 ティエラの記憶が戻ってきていることにルーナが戸惑っているのが分かった。


(やっぱり、私に記憶が戻ってくると不都合なのだわ……)


 ルーナが知られたくないことを、ティエラに隠そうとしているように感じた。

 ティエラがルーナを見返していると、彼がゆっくりと口を開いた。


「……姫様に口づけても良いですか?」


「え?」


 思いがけないルーナの発言に、ティエラは目を丸くしてしまう。

 彼女は先ほど、ソルの事が好きだけれど、自分の中にルーナへの想いがまだ残っていることにも気づいてしまった。

 そんな相手であるルーナに求められると、もちろん困惑してしまう。


 だけど、どうして彼は他に想う人がいるのにティエラに口づけようとするのだろうか。



(私に彼の言うことをきかせるためには、好きになってもらうのが一番だと考えているのかしら?)



 そうだとすると、ルーナの言うことは聞きたくはない。

 だけれども、昨晩の約束もある。

 ティエラは目を伏せながら、彼に答えた。


「……記憶を奪わないなら貴方の願いを聞き入れると約束したわ……。だから、そうしないといけないのなら、応じるわ……」


 ティエラが答えると、ルーナは眉根を寄せた。

 彼を不快にさせたかもしれない。

 でも、ティエラは素直に「はい」と答えることはできなかった。


 ルーナがティエラの顎にそっと指を添えてくる。

 俯いたままでいる彼女の顔を上向かせた。



 そして――。



――彼はティエラの頬に口づけを落とした。



 ルーナはティエラから離れる。

 彼は、寂しげな表情を浮かべていた。


(やっぱり、この人が何を考えているのかが分からない)


 ティエラは、もう少しだけ彼を知らないといけない。

 思い切って、彼女はルーナに自身の願いを口にした。



「ルーナ、貴方の本当の考えや気持ちを教えてほしい」



 しばらく間があった後に、ルーナからの答えがあった。


「お答えしたいとは思いますが……。私には、今から行かないといけない場所があります」


 ティエラは、少しだけはぐらかされたような気持ちになった。


 目の前のルーナは、いつものように微笑んでいる。

 だけれどなぜか、ティエラはそんな彼の表情に違和感を覚えた。


「ルーナ、あまり行きたくない場所に向かうの?」


「え?」


 また彼の瞳が揺れたのが、ティエラには分かる。

 彼はまた笑みを作って、彼女に答えた。


「姫様、また夜に参ります」


 そう言ってルーナはティエラの元を去った。


 今日の夜、果たして彼は、本当の事を彼女に教えてくれるのだろうか――?


「ルーナ……」


 外出を禁じられた自室で、ティエラは婚約者について思い出した記憶を反芻した。




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