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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第1部 月の章

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第19話 近づく新月の前に

6/13文章の見直しをおこないました。




 久しぶりに、ルーナがティエラの部屋を訪れた。


(ルーナに会えてほっとするような、どう接して良いのかわからないような……複雑だわ……)


 ルーナの表情には疲れが色濃く滲んでいる。


(ルーナの蒼い瞳が、少しだけ曇って見える……)


 いつもはティエラの顔を見るとすぐに距離を縮めてくるルーナだったが――。


(今日は少しだけ距離が遠い――?)


 躊躇いがちにルーナが切り出した。


「姫様……先日は、大変申し訳ございませんでした。怖がらせてしまいましたね……」


 哀しげにルーナは瞼を伏せる。


(あ――)


 ティエラはルーナの様子を見て、胸が苦しくなった。


(どう、声を掛けたら良いかしら――?)


 少し間を置いて、ティエラはルーナに声をかけた。


「あの日は怖かったですが、今は大丈夫ですので……ルーナはいつも通りのルーナで居てください……」


 そう告げると、ルーナははっとした様子だった。


「姫様はやはり、お優しいですね」


 ルーナの表情の硬さが、少しだけ和らいだ。

 彼は、涼やかな声でティエラに懺悔する。


「姫様に嫌われたのかと思い、しばらく部屋に参ることが出来ませんでした」


(ルーナは私よりも十歳は年上のはずなのに、なんだか小さな子どものみたいね――)


 ティエラの胸に罪悪感がわいた。

 いつもとは違い、彼女は自分からルーナに歩み寄る。


(ルーナ……)


 ルーナの白金色の長い睫毛を、涙が濡らしていた。

 以前、彼がティエラにしてくれたように、彼女はルーナの涙を指で拭った。

 両手でルーナの顔を包み、ティエラは彼の顔を覗きこむ。


「ルーナ。私は貴方を嫌いになんて、なれません……」


 海のように美しいルーナの瞳に光が宿った。

 しばらくした後に、彼はティエラに声をかける。


「……記憶を取り戻したとしてもですか?」


 その声は消え入るように小さかった。

 ティエラは、ルーナの瞳をしっかりと捕らえる。


(ちゃんと伝えないと、ルーナがいなくなってしまいそう――)


「記憶が戻ったとしても、私は絶対にルーナを嫌いにはなりません」


 ティエラは力強く伝えた。

 室内に、ルーナの嗚咽が響く――。

 小さな子どものようなルーナを、ティエラはそっと抱き締めた。


(私のお父様を殺した犯人――もし、私の想像通りだったとしたら――)


 気付かないようにして目を背け、ティエラは泣きじゃくるルーナのそばに居続けた。




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