【正史】2-1 大地と太陽の再開
戦後は、ティエラとソルの間にあった出来事の話が主になります。
途中、この話を書いたら本編のシーンが全てあやしくなるという箇所がありまして……。ルーナのifも控えているので、その話だけ【if】にしておきます。解釈を読者様に委ねるのは申し訳ないです……。その話の前書きにも同じことを書くと思います。
書き次第上げていきますので、どうぞよろしくお願いします。
ティエラは城を飛び出し、ドレスのまま走っていた。
オルビス・クラシオン王国の勝利で戦争は終結したと報告があった。
自軍の被害も少ないという。
一度だけソルが行方不明になったと聞いた時には、ティエラは気を失いかけた。だがその後、彼が敵の軍勢を一掃したというではないか。
ティエラは幼馴染の活躍を聞いて、胸が躍った。
周囲も彼を賞賛していた。
最強の騎士「イリョス・ソラーレ」の息子としてではなく、ソル・ソラーレとして彼が認められたのだと、ティエラの自分の事のように喜んだ。
『それでも、人殺しは人殺しだ』
彼は人を殺すことをひどく厭っていた。
だけど、戦争だった。
周囲の明るい表情を見れば、彼の悲しみも和らぐのではないだろうか。
今しがた、城に残っていた騎士からソルが帰って来たとの報告があった。
すぐにティエラは自室を抜け出した。
裾の長いドレスを着ていたので、靴で踏んで何度か転びかける。
前のめりになりながらも、彼女は待ち人の元へと駆ける。
城門が見えた。
ちょうど門をくぐった先に、紅い髪の青年が目に入る。
「ソル!」
ティエラが大きな声で名を呼ぶ。
目当ての人物がこちらを振り向いた。
「ティエラ」
彼に名を呼ばれて、胸がいっぱいになる。
彼女はそのまま、彼の胸へと飛び込んだ。
ソルは、ティエラをそのまま抱きとめる。
「良かった……。ソルが生きててくれて、本当に良かった」
ティエラの瞳からは涙が零れる。
彼女はソルに、そっと抱き寄せられた。
「ありがとう、あんたのおかげで助かったよ」
ティエラは、ソルを見上げて不思議そうな顔をした。
「私のおかげ……?」
ソルに尋ねると、彼はゆっくりと頷いた。
彼が言っている意味はよく分からなかったが、ティエラはとにかく嬉しくてたまらなかった。ソルと離れていた期間はほんの少しだったが、気が遠くなる位長く感じていた。
彼女は、首に飾ったペンダントを手に取り、ソルに見せた。
「私、ずっとこのペンダントを貴方だと思って身に着けていたのよ」
彼女がそう言うと、ソルの耳が赤くなる。ティエラも、そんな彼の変化に気づいた。
彼女から視線をはずしながら、彼は小さな声で一言「そうか」とだけ答える。
(ソルは、やっぱりソルのままだわ)
ティエラは自然と笑みが零れた。そんな彼女に、ソルも笑みを返す。
二人はしばらく見つめ合っていた。
すると、近くで咳払いが聞こえた。
「二人ともすまないが、感動の再開は後で頼む。国王様に報告に行かねばならない」
近くに銀の髪に紅い瞳の少年とも青年とも区別がつかない男がそこには立っていた。彼は、玉の一族のセリニ・セレーネだ。
周囲を見ると、他にも騎士や魔術師らが大勢いて、ティエラとソルの様子を見ていたようだった。
ティエラは途端に恥ずかしくなってしまい、ソルの身体から離れた。
(私ったら、婚約者のルーナがいるのに……)
「セリニさん、ごめんなさい。ソル、じゃあまた後でね」
ティエラは、セリニとソルの二人に声を掛ける。
そうして彼女は彼らを見送った。
(これからまた、ソルと一緒に過ごすことが出来る。元の生活に戻れるのね……)
その時のティエラは、そう思っていた。
けれどもそれは、戦場を見ていないからこその考えだったのだと、後から思い知らされることになる。




