【正史】1-7 紅髪の狂戦士に愛しい少女の声が届く
「私は、アズライト・カルセドニー! 剣の守護者よ! 私がこの戦の責任を任されている! スフェラの者と闘うのは、私で最後にしていただきたい」
セリニは、ソルと対峙した男を見やった。
彼は、青い髪に榛色の瞳を持った男だった。武器に大剣を使用している。
本戦争の指揮官を任されているフラム・ソラーレが、戦が始まる前に告げていた、敵国スフェラ公国の副騎士団長の名だった。騎士団長は高齢で、前線には出ていないという。
(スフェラの騎士団長は、自身が汚名を被ることを厭ったか?)
色々と邪念は沸く。だがセリニは、敵国の内情に関して深くは考えないようにした。
ソルと闘う男は確かに強かった。
これまでは一方的に倒されるだけの騎士や兵士しかいなかったが、正気を失っているソルの攻撃を受けても倒れない。
(だが、倒れないだけだ)
アズライトと名乗った敵の将は、ソルの剣を防いだり打ち返したりするので精一杯で攻撃に転じることがない。
しかし、アズライトの背後に現れた少女と少年の登場によって、戦況が少しだけ変わった。
セリニが遠目で見るに、少女は水色の髪をしており、少年は黒髪だということが分かる。
(子ども……? まさか斥候が報告で言っていた……!)
少女が何か言う。それにアズライトが応える。防戦一方だった彼が、いつの間にか攻めへと転じていた。
セリニは転移の術で、すぐに少女たちの前へと跳んだ。
※※※
今までは逃げまどう人々の命を奪うだけだったが、ついに自分と対等に戦える相手が目の前に現れた。
戦争中に忌避すべき相手の登場であるはずなのに、紅い髪をした生き物の気分は高揚していた。
あまりに一方的な命の奪い合いに飽き飽きしていたところだった。
自分に攻撃が出来る相手が出てきた。
大剣を振り下ろされるのを、剣で受け止める。その重みで手が痺れるのも心地よいとさえ思った。
剣を返して、大剣を弾くと、簡単に相手の身体を裂いた。
もっと、もっと――。
「――! 帰ってきてください! 絶対に、私のところに……!」
誰を呼んだのかは聞こえなかった。少女の声だ。
声の主の瞳に目を奪われた。
金色の瞳――。
『帰ってきて……! 絶対に、私のところに……! どんなことになっても、どんなことをしても……。ソルは、ソルよ』
別の少女の声が頭の中に響いた。
どうして忘れてしまっていたのだろうか。
愛しい少女の声を――。
※※※
ソルははっとなり、周囲に目をやる。
気付いたら、そこら中に夥しい数の死体が重なっていた。
「これは……誰が? 俺、が……?」
鼓動が耳に響く。
一気に背筋が冷たくなった。
状況が呑み込めない中。
次に目に入ったのは――。
――青い髪をした男の大剣が、自分目がけて降り降ろされる光景だった。
気付けばソルは血だまりの中に倒れていた。




