【正史】1-6 赤髪の狂戦士――半月では――
この次の話で戦争中の話は終わります。城に戻ってのやり取りが数話で過去編は終了です。
セリニは、ソル達を護るためにと戦場へと降り立っていた。
もしものためにと、癒しの魔術を使用できる魔術師を数名連れて転移した。一人ならもっと早く着いただろうが、他に人を連れた状態だったので、到着までに時間がかかった。
ソル達が危機に陥っているのではないかと心配していたが、想像とは違う状況にセリニは驚いた。
「これは、どうなっている?」
オルビスの兵達は皆一様に倒れている。
そして、遠くには折り重なるようにスフェラ公国の騎士や兵士達が倒れているの見えた。目をやるだけで分かる。身体の損傷状態から、彼らが助かる可能性はない。
驚くべきは、その夥しい死体の群れが遥か遠くまで続いていることだ。
(何百とは効かない。これでは、スフェラ側が戦えるはずがない――)
誰か、起きていることを説明できる人物はいないのか?
疑問に思ったセリニが周囲を見回す。
遠くに、ウムブラの魔力を感じ、そこへと魔術で跳んだ。
「ウムブラ、どうなっている? お前、脚が……」
すぐに、ウムブラから反応があった。
「セリニ様、ソル様が……」
それを聞き届けた後、セリニは魔術師達にウムブラを託し、その場から移動した。
※※※
紅い髪の男の持つ剣が、怪しげな血のような光を放っていた。
逃げる兵士もわざわざ掴んで斬った。
命乞いをする騎士も構わずに剣で貫いた。
騎士の中には女も子どもも居たが裂いた。
「深追いするな! もうあやつらに勝ち目はない!!」
自分を見て、化け物と叫ぶ声が聞こえる。
いよいよ自分が人だったのか分からなくなった。
「待て! 正気に戻れ! 剣の!」
遠くでどこかで聞いたような男の声が聞こえる。
呼ばれてもなお、逃げまどう人々の命を絶った。
「姫様の元に帰れなくなるぞ! ソル!」
姫様?
ソル?
『ソル――』
頭の中に、少女の声が聞こえかけたが、すぐに消えてしまった。
誰の意思で動いているのか、もはや分からない。
何をしたかったのか――。
「オルビス・クラシオン王国、剣の守護者ソル・ソラーレ! もうこれ以上他の者には手を出さないでほしい」
男が言う者の名が誰なのか、もはや知らなかったが、一瞬だけ手が止まった。
血に飢えた紅髪の狂戦士の前に、青い短い髪をしたスフェラ公国の騎士が立ちはだかった。




