【正史】1-3 戦場で太陽は――※R15
戦争の話が苦手な人もいるかもしれないので、R15タグをつけています。作者なりにぼかしはしましたが、ご理解いただけると幸いです。
そこまで戦中の話は長くないと思います。平日中に戦後まで一気に書いてしまって、ルーナの話に向かう予定です。どうぞよろしくお願いします。
夜、小高い丘に騎士や兵士たちが集まって休息を得ていた。なるべく安全な場所が確保されており、近くには水も流れている。
焚火にあたっていたソルは、近くにいる親友に声を掛けた。
「おい、ネロ、はしゃぎすぎだって」
青銅色の短い髪に榛色のやや鋭い瞳を持ったネロは、普段からお調子者だ。
彼は、戦争が始まった直後は緊張していたようだった。今日実戦で人を斬ったのだが、それ以来、彼はずっと浮かれているようだった。人を殺した体験は初めてであり、気分が高揚しているのだろう。たまにそういう者もいるそうだ。
もう一人、一緒にいる友人のアリスに至っては震えてうずくまっていた。アリスは女性で、金色の髪に青い猫のような瞳をした人物だ。ソルとしては、どちらかというと震える彼女の気持ちに共感できる気がした。
ここまでの戦闘はわりと順調だ。オルビスが優勢のまま来ている。
このまま敵が撤退してくれるなら、こんなに楽なことはないが、そうはいかないだろうとも思っている。
ソルには、この戦闘で一つだけ懸念があった。
自分達三人だけ、他の者達よりも敵に当たる数が多い気がしたのだ。
神器持ちであるソルが狙われる可能性はもちろん高い。
彼を倒せば、スフェラが勝つ確率が飛躍的に上がるだろう。
基本的に、神剣を用いてよほど大きな術や力を使わない限り、他者がその力に気づくことはできない。
まれに神器の小さな力にも気づく人物がいるが、万に一人と言って良い。
神器の使い手がどこにいるかなど分からない状態であるにも関わらず、なぜかソル達だけ戦っている相手が多い気がする。
「場所がばれている? 気のせいか……?」
ソルは顎に指を当てて考え込み始めた。
先程まで震えていたアリスが、少しだけ顔を上げてソルを見る。
おずおずと、彼に向かって話しかけた。
「ソル。お前は力があるから、相手にする数が必然的に多くなっているんじゃないか?」
「そうかもしれないな」
ソルは曖昧に頷いた。
アリスはそう言うが、本当にそうだろうか?
ソルは少しだけ、先が視えなくなったようで不安になった。
※※※
翌日以降も、ソルは頻繁に敵の相手をおこなった。
降り注ぐ弓矢を剣で打ち払い、何人もの人を斬った。
神器を継承して以降、五感が敏感になっていた。
幸か不幸か、ソルは自国の他の兵士達よりも、敵の接近に気づきやすくなってしまっている。
森の中を進む中、鳥が飛び立つ音で伏兵の存在に気づくと、すぐに近づいて相手を刺した。
樹の揺れで敵が近づいていることもすぐにわかり、誰よりも早く敵を薙いだ。
誰よりも多くの数を斬っていった。
相手の血飛沫で、肌が濡れていく。最初は拭っていたが、段々気にならなくなっていく。
気分が悪くなっていた血の匂いも、もう分からなくなった。
四肢を失った敵や味方や、潰れた肢体や腸や、そういうものに見慣れていった。
呻きや命乞いや、誰かの叫びも聞きすぎた。
それよりも――。
もう初めに誰を殺したのか忘れてしまった。
手に伝わる人を斬り殺す感覚に、段々慣れてしまった。
もう殺すことに躊躇がない。
生きるために、彼らの持つ食糧や武器を略奪することも普通になった。
感覚が、麻痺してしまっていた――。
※※※
数日前に抱いていたソルの懸念が現実となった。
山の中を進み、スフェラ公国の兵士達を斬りながら進んでいた時だ。昨日までは近接武器を主体に戦って来られることが多かったが、今日は弓や、遠距離からの魔術等が昨日に比べて多かった。
ソルは、頭の中に地図を思い描いた。この先は崖のはずだった。
(罠だ――)
直観的にそう思い、一緒に行動しているネロに声を掛けるが、制止を振り切って先へどんどん進んでしまう。
彼を見捨てるという選択肢もあったが、仮にも仲の良い人物を見捨てられるほど、彼は他者に冷たくはなれなかった。
結局アリスも含めた三人で崖に追い詰められ、数十人の敵国の騎士に取り囲まれた。
ソルは、ネロが囮になると言ったのをなんとか制止した。
その後三人で、なんとか全ての敵を葬った。
「ソルがいて良かったよ……!」
感極まった様子でネロがソルにそう言った。
近くにいたアリスも泣き崩れて、その場に座り込んでいた。
「そうか……」
ソルも肩で息をしていて、そう答えるので精いっぱいだった。
近くで倒れた人間達の一人が、まだかろうじて生きていたようだ。うめき声が聞こえる。
ソルは視線を感じ、横たわる声の主に視線を映した。
まだ年若いと思われる青年だった。
自分がやったのだろうが、彼は背から大量の出血をしており、腕も変な方向を向いていた。
もう助からないだろう。
ソルは目をそらしても良かったが、黙ってその男を見ていた。
男がなんとか口を開き、ソルに向かってこう言った。
「化け物」
※※※
人の死が日常になってしまった。
いつまで人を殺めれば終わるのかが分からない。
今斬ったのが、動物なのか、魔物なのか、人なのか。
ためらいなく生き物を殺す自分。
自分こそが魔性のものだったのかもしれない。
頭の色も髪の色なのか、血の色なのか。
『ソル』
ソルの内から少女の声が聞こえた。
自分を現実に引き留めてくれる確かな声。
彼女の声だけが、戦場で彼を人でいさせてくれた。
「ティエラ」
彼は夢の中でも、彼女を求めた。
ソルの腕の中で、ティエラが微笑む。
そんな場面が浮かんでは消える。
毎日彼女を思い出す時間だけが、彼の唯一の救いだった。




