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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
第1部 月の章

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第18話 満月の決意

6/11文章の見直しをおこないました。




(断片的にしか思い出せなかったけれど、成果は大きかったわ)


 記憶を失う前の自分自身の気持ちまでは、推し量ることは出来ない。

 けれども――。


(ソルが、私を裏切ることはないわ――)


 ティエラは、確信に近い気持ちを抱いていた。


 だとすれば、他に誰か父の暗殺者がいるということだ。


(ソルの言う通り、気をつけた方が良いし……ソルの嫌疑をはらすためにも、改めて犯人を捜し出す必要があるわ――)


 父に関する記憶はまだ戻っていない。

 だが、彼のことを思い出そうとする時、なんだか懐かしい感覚と悲しみの感情がわいてくる。


(きっと、私は父のことが好きだったんだと思う)


 一方で、ルーナのことが気になっていた。


 この前の夜のことと、先程思い出した記憶――。


 どちらも思い出すと、胸がぎゅっと苦しくなった。


(あの日の夜のルーナは、いつもと様子が違った……)


 ルーナは仕事で疲れていた。そんな時、憶測だけで物を言うティエラに怒ったのかもしれない。


(私に記憶が戻ったのかどうかを気にしていたわね……何かしら思い出してほしくないことがルーナにはあったんだわ……)


 都合のよい考えだとは思うが、過去の自分にまつわることを、ルーナはティエラに思い出してほしくなかった可能性もある。


(そう考えれば、ウムブラが『ルーナ様のためにも思い出してほしくない』と言っていた話ともつながる気がする……さすがにこじつけかしら)


 小さい頃パーティ会場で貴族の女性に言われた台詞を思い出す。

 すると、ティエラの胸に鉛がのしかかったように感じた。


(確かにルーナから『お慕いしておりました』とは言われたけれど、いつから慕っていたのかまでは教えられていないもの……)


 ルーナとティエラは、十歳近く年も離れている。

 あのパーティの時、ティエラは七~八歳だったわけだから、ルーナは十七~十八歳頃である。

 いくら婚約者とは言え、成人した男性が、まだ十にも満たない女児を慕っているという想像がしづらい。


(人の気持ちを縛ることは、その人本人以外には出来ない……)


 だから、当好きな女性や何かしら関係のある女性が、当時のルーナにいてもおかしくはない。

 そう言い聞かせるが、ティエラの胸の奥が締め付けられるようで苦しくて仕方がなかった。


 ふと――。


『俺は、あんたをずっとみてるから』


 ソルの顔が浮かんだ。

 

 彼は、今、ここにはいない。


 遠征の際、ティエラに何かを渡していた。だが、それが何だったのかも分からない。


(昔のソルなら裏切らないけれど、もしかしたら今のソルは裏切るのかもしれない……?)


 記憶喪失前のティエラと、今のティエラで、抱く想いが違うように――。


 ティエラは月を観る。

 ウムブラが、新月の夜ならば塔の封印が弱まり、宝玉に近付くことができるだろうと話していた。


(新月まではまだ日にちがあるわ――)


 もっと辛い記憶が甦るのかもしれない。


(だけど、全部を思い出して、何もかも解決した上で、女王に即位したり、ルーナとの婚礼の儀を執り行いたい――)


 覚悟を決めたティエラの頭上では、満月が光輝いていた。







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