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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
過去編

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217/289

【正史】0-28 月と大地の距離1

作者の技量ミスであと1話は、ティエラとルーナの話が続きます。

ティエラ12歳、ルーナ22歳、グレーテル12歳、ウムブラ30歳前後かな……。





 今日は、一応休日だ。

 ティエラは、なんとか繕い物を終えて、また窓辺でぼんやりとして過ごしていた。

 太陽が沈みかけている。少しだけ、その紅さを眩しく感じる。 


 毎日毎日、同じことばかりを考えている。


(ソルに会いたい……)


 幼馴染で護衛騎士である彼の事を想うと、毎日胸が痛い。

 次期開戦と言っても、ティエラの生活自体に、そこまで大きな変化はない。

 だからこそ、ソルと自分の置かれている状況の格差が苦しいのかもしれない。いくら心配しても、実際に戦地に置かれないと、彼らの真の苦しみを理解することはできないだろう。


 一方で、ここ二日間の出来事でも、ティエラは頭を悩ませていた。


 一昨日前に、婚約者のルーナから口づけられた。

 そのことで、気恥ずかしくて彼の顔が見れなくなったり、頭になぜかソルの顔が浮かんだりして、彼女の心はぐちゃぐちゃだった。

 そんな中、昨日はルーナが薔薇の花束を持ってきたのだが、戦時中だし不謹慎だからと受け取るのを断った。だけど、せっかく花を持ってきてくれた彼に対して失礼だったと思い、ティエラはルーナを追いかけた。

 そこで見たのは、ルーナがヘンゼルに紅い薔薇を渡しているところだったのだ。


(私が受け取らなかったら、別の女性に渡せば良いだけだもの……)


 ルーナは、誰が見てもため息をもらす程の美丈夫である。

 そんな彼は、特段ティエラと婚約しなくても、女性に困ることはないだろう。

 実際に、噂では、女性との交遊が多いとの話も聞く。これまでは、噂は噂だと自分に言い聞かせてきたが、とにかくティエラは自信を失っていた。


 今日も朝から、ルーナがティエラに会いに来ていたと言うのに、扉の前で追い返してしまった。

 しかも、彼に対して『今は、貴方に会いたくないの……』と伝えた。


(今日もまた、ルーナに失礼な態度をとってしまったわ……)


 また彼を傷つけるような言動をしてしまった。

 つくづく、身体だけ大人に近づいて、心が子どものままの自分に嫌気がさしてきた。


 胸の内が、晴れることはない。


 ティエラが落ち込んでいると、部屋の扉が叩かれた。


「はい、どちら様でしょうか?」


 またルーナが会いに来たのだろうか?

 そう思い、ティエラが扉を開くと、そこには思いがけない人物がいた。


「姫様、こんばんは~~。夕暮れ時に失礼致します」


 軽い口調で話すのは、ルーナの付き人をしているウムブラだった。

 ティエラは彼の周囲を確認した。だが、近くにルーナの姿はなかった。

 ウムブラが一人でティエラのところに来るのは珍しい。

 一体どうしたのだろうか?


「ウムブラさん、どうなさったんですか?」


「姫様に、ちょっとご相談がございましてね」


 彼から、ティエラに相談とは、ますます珍しい。

 ウムブラからは、あまり困った様子は感じられないが、ティエラは話を聞いてみることにした。

 少しだけ神妙な様子になった彼が、彼女の方を見て口を開いた。




「それがですね。先程、グレーテルさんが、ルーナ様のお部屋に遊びに行ってしまいまして」




 彼の言葉に、ティエラの思考が固まる。

 声を出すのに、しばらく時間がかかった。


「……グレーテルが、ルーナのお部屋に、遊びに行った……?」


 なぜ、ティエラのお世話係である彼女が、休日に彼の部屋を訪問するというのだろう。

 グレーテルは、ルーナのことを苦手だと言っていたような気がしたが、ティエラの気のせいだったのだろうか。

 そもそも夜が近づいてきている。

 最近は、ティエラも、夜に女性が男性に近づくのは、あまり良くないと分かってきている。

 グレーテルは、そのあたりの危機管理は……。


(普段の彼女の言動だけ思い出したら、不安になってきたわ……)


 ティエラとグレーテルの年齢はほとんど変わらない。

 これまでなら、ルーナは大人の男性だから、子どもには興味ないだろうからと、安心できていたのだが……。実際、一昨日前に、ルーナはティエラに口づけてきた。

 彼は同年代以上の女性に困りはしないと思うのだが、小さい子でも別にいいのかもしれない。


(ますます心配になってきたわ……)


「どうなさいますか、姫様? 私がついて行っても良いですよ~~? そのままになさいますか?」


 やや愉快気に話すウムブラのことが、少しだけ気になったが、ティエラは力強く答えた。



「ルーナとグレーテルの所に行くわ」




※※※



 ウムブラと一緒に、ティエラはルーナの部屋の前まで来た。


(緊張して来たわ……。ルーナとグレーテルは……?)


 彼女は中に入る前に、そっと扉に耳を当てた。

 中から、くぐもった男女の声が聞こえる。

 何を話しているのかは聞き取りづらい。


(私、こんなところで何やってるのかしら?)


 少しだけ、我に返りかけたティエラだったが――。


「いや~~ん。ルーナ様、そんなのダメです~~!!」


 グレーテルが、突然大きな声を出した。

 ティエラは思わず、ノックもせずに、勢いよく扉を開いた。




※※※




 ティエラが扉を開けて、真っ先に目に入って来たのは――。


「あ、あれ?」


 彼女は、間の抜けた声を出した。


 ティエラの目には、椅子に座ってお茶をたしなんでいるルーナと、彼から遠く離れた窓際に立つグレーテルの姿だった。


「姫様?」


 突然、部屋に現れたティエラに、ルーナも大層驚いているようだった。

 彼は茶器を机に置いて椅子から立ち上がると、彼女に近づいた。


「どうなさいましたか、姫様?」


「あ、あの……」


 ティエラは、動揺してしまった。


「実は、ウムブラさんに……」


 彼女は一緒に来ていたルーナの付き人に声をかけようとして後ろを振り返った。

 

 しかし、背後にウムブラの姿はなかった。


「あれ?」


 さらに彼女は混乱する。

 慌てていると、遠くにいたグレーテルがティエラに声をかけてきた。


「姫様~~」


 グレーテルはティエラに走り寄って来た。

 そうして、グレーテルは満面の笑みを浮かべて、ティエラにこう告げた。


「ちょうど、お姉さまの代わりに頼まれたグレーテルのお仕事、終わりました。なので、グレーテルは退散いたしますね~~」


 グレーテルは、ティエラを部屋の中に引っ張った後、挨拶をして去って行った。

 

 ティエラの背後で扉が閉まる。


 窓に映る空の色はもう暗い。


 彼女は、ルーナの部屋で、彼と二人きりになったのだった。




たぶん明日の午前までには上げます。

その後、3~4日ほど休載する可能性があります。

にわかに忙しく……。申し訳ございません。

お時間ございます方は、ブクマや、☆1でも良いのでご評価いただけましたら作者の励みになります。

また、お会いできますように。

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