【正史】0-27 月と大地はすれ違う5
「姫様、お加減はいかがですか?」
ルーナはティエラの部屋の扉に立って、彼女に問いかけた。
「一目で構いませんので……良かったら、お顔を見せていただけませんか?」
彼がまた尋ねるが、中から反応がない。
ルーナがしばらく立ち尽くしていると――。
「ルーナ、ごめんなさい……。今は、貴方に会いたくないの……」
弱々しい声で、ティエラからはそうとだけ返事がある。
彼は呆然として、そこからしばらく動けなくなった。
※※※
グレーテルは、頭の両側に結ってある黒髪を揺らしながら走る。
ちょうど目当ての人物を見つける。長身で、長い黒髪を首元で一本に結んだ男。
彼女は、彼の名前を呼んだ。
「ウムブラさ~~ん」
グレーテルが呼ぶと、ウムブラは振り返った。彼の左目の単眼が、陽の光で反射した。
「どうしましたか? グレーテルさん」
「グレーテルから、ウムブラさんにお尋ねしたいことがあるんですけど~~♪」
そうして今時間があるか尋ねると、彼は「大丈夫ですよ」と答えた。
「姫様とルーナ様の様子がおかしいんですけど、一体何があったんですか~~?」
グレーテルは、難しく物事を考えるのは苦手だ。そのため、気になったことがあれば、特に包み隠さず何でも質問する。
「さあ、僕の口からはなんとも~~」
飄々とした調子でウムブラが言うのに対し、グレーテルは、自身が今考えていることを告げた。
「グレーテルの勘ですけど~~、ルーナ様、うっかり姫様の唇を奪っちゃったんじゃないですか~~?」
にこにこと笑う彼女に対し、ウムブラは困ったような表情を浮かべる。彼は苦笑しながら続けた。
「グレーテルさん、見てたんですか~~?」
「いいえ~~。ただ、姫様がえらく唇を気にされてたので」
グレーテルは、ティエラのお世話係だ。姫様の行動の変化には、かなり敏感である。ソルがいなくて落ち込んでいたティエラだが、ルーナが代わりによく顔を出すようになり、少しだけ元気になっていた。
だが、昨日、ルーナの部屋からティエラが帰ってきて以来、また彼女の気分が塞ぎ始めた。しかも、何度も唇を、手の甲で拭っていたのだ。
一連の流れから、グレーテルは、ティエラとルーナに関してピンと来たのだった。
「あと~~。実は、今まずいことになってるんですよ~~」
「まずいことですか?」
ウムブラがグレーテルに問いかける。
彼女は昨日の出来事を話した。
「ルーナ様が、ヘンゼルお姉さまにバラの花束を渡してたんですよ~~。それを遠くから、姫様が見てたんです~~。グレーテルは、これまた遠目から、その様子を見てました」
「それは、まずい。また姫様の勘違いが進みますね~~」
ウムブラの発言に、グレーテルはうんうんと頷いた。
「そこで、グレーテルから提案があるのですが……」
彼の耳に顔を寄せ、彼女はひそひそと自身の考えを話した。
そうすると、ウムブラはにこやかに笑った。
「ぜひ戦地に向かう前に、貴女のお手伝いをしますよ」
彼の答えに、グレーテルは満面の笑みを浮かべた。
「いいえ、グレーテルさんのお役に立てて光栄です」
彼にしては珍しい、心の底からの笑顔。
その表情に、知った顔が重なる。
『あれ~~?』
「あ、そういえば。ウムブラさん、昔、どこかで、私とお会いしたことがありますか?」
彼女は彼に、ふとわいた疑問をぶつけた。
それに対して、彼は答えた。
「さあ、どうでしょうかね」
少し寂しげに笑う。
まだ小さいが勘は良いグレーテルだが、狸のような彼の本当の思いに気付くのは、まだ難しかった。
次でティエラとルーナのすれ違いは一旦落ち着くはずです。
また、明日、お会い出来ることを祈って♪
あと、本日短編を投稿しています。
ティエラとソルの設定を少しいじって、現代版にしたらどうかな? と言う感じで書いています。最近、ソルがいなかったので、楽しく書きました。
あんた呼びじゃなかったり、人によっては苦手な煙草の話とか出ますので、苦手な人は避けてください。
興味のある方は、ぜひどうぞ(^ω^)




