【正史】0-21 月と太陽の間にあるもの
太陽が少しずつ光を増してきている。
ソルの紅い髪は、陽光を反射して、今は朱色に視える。碧の瞳にも光が差している。
城門前の広場に、騎士達が集まってきているはずだ。彼は、ティエラが住む小城の門を抜け、城門に向かい歩を進める。
服の上から、ティエラからもらった御守りに手を当てた。
昨晩の事を思い出す。
『帰って来て……! 絶対に、私のところに……! どんなことになっても、どんなことをしても……。ソルは、ソルよ』
そう言っていた彼女の願いを無下にすることは出来ない。
ソルは、神剣の守護者だ。他の者達の分まで働く必要があるだろう。
誰よりも戦果を上げながらも、生き延びないといけない。
「気合い、入れないとな」
ソルが、そう呟いていると、目の前に影が差す。
彼が顔を上げると、白金色の髪に蒼い瞳をした青年が視界に入った。
(朝っぱらから、見たくない顔を……)
青年は、同じ神器の守護者ルーナ・セレーネだった。
彼は、初代玉の神器の先祖返りだと言われ、類いまれなる容姿と魔術の才能を持って生まれている。勉学等に秀でているだけではない、剣術等に関しても、全ての面で恵まれた存在。
ソルも、神剣の加護を受けているので、身体能力に関しては、他の者達よりも恵まれている。神剣の守護者になったことで、これまでよりも五感に優れるようになったのは事実だ。
だが、それだけの優遇された力を持ってしても、ソルがルーナに剣術で勝ったことは一度もない。
本来なら、剣の守護者であるソルが、一番武芸に秀でた存在でないといけないのに――。
認めたくはない。しかし、ソルは、全ての面でルーナに負けていると感じている。
しかも、ルーナは、ソルの護衛対象であるティエラ姫の婚約者でもある。
以前から顔見知りではあった。けれども、ルーナがティエラの婚約者になってからは、より一層の劣等感を抱くようになってしまった。
ソルは、ルーナを無視して、彼の横を通り抜けようとした。
「目上の者に、挨拶もなしか?」
ルーナが、ソルに声を掛けてきた。
彼の言い方が気に喰わない。
ソルは、その場で立ち止まった。ルーナに視線を移す。
少し苛々した調子で、ソルはルーナに返答した。
「一応、俺も剣の守護者になったので、貴方様と権限は対等になったと思うのですがね」
「お前は、慇懃無礼という言葉を知っているか?」
ルーナはにこやかな表情は崩さずに、ソルに問い直す。
「無知なので、知りませんでした。じゃあ、俺ももう行かないといけないんで」
そう言い、ソルがまた歩こうとした。
「待て」
引き留められたソルは、今度は身体ごとルーナの方を振り向いた。
ソルはため息をつきながら、ルーナに声をかける。
「本当に急いでるんだよ。お前は暇かもしれないけどな」
敬意を払うのも忘れて、そう返してしまった。
「姫様に何を言われたのかは知らない。だが、お前に行っておきたいことがある」
「見てたのかよ……。相変わらず趣味が悪いな」
先ほどの、ソルとティエラのやり取りを、この男はどこかから見ていたのだろうか。
ルーナの、いつも何か知った風なところも腹が立ってくる。
冷静になろうと、少しだけソルは深呼吸をした。
「色々な者に同じことを言われているだろうが、忠告だ。感情的になりすぎるのが、お前の癖だ。戦場でも同じ状態だと、死ぬぞ」
ソルは息を呑んだ。
ルーナが、まさか、まともな助言をしてくるとは思わなかった。
彼の蒼い瞳は真剣さを宿している。
「逆に、気持ちをうまく使えば、実力以上の力を発揮することもできるだろう」
そう言って、ルーナはソルから離れようとした。
「あんたが俺にそんなこと言うなんて、珍しいな」
ソルがルーナにそう声をかける。ルーナはちらりと、ソルの方に視線をやった。
「お前が死んだら、姫様が悲しむからな」
ソルの碧の瞳と、ルーナの蒼の瞳が互いを映していた。
まともに、この男と話したのも久しぶりな気がする。
「武運を。……死ぬなよ、ソル」
今度こそ、ルーナはその場から立ち去った。
「ああ、絶対お前とティエラのところに帰ってくるさ。ルーナ」
彼の背に、ソルは声を掛けた。
聞こえたかどうかは分からない。
だが、恐らくは聞こえただろう。
ソルも少しだけ笑んで、また騎士の皆が待つ元へと、歩みを再開した。
いつもお読みくださり、誠にありがとうございます。
ルーナとソルについて、ソル視点でお送りしました。
一応彼らに関しては、反目し合うけど、お互いには認め合っている間柄として本編で書きたかったのですが、なかなか作者の技量が伴わずうまく書けなかったなと思ったり。
次か次こそ、ルーナとティエラのエピソードを書きます。
本日中にもう一度投稿できるかなと思いますので、どうぞお待ちください。




