表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
過去編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

209/289

【正史】0‐20 大地は太陽を見送る



 早朝、ソルを見送ることになった。

 朝早いと、彼から聞いていたので、しっかり身支度を整えておいた。

 ソルがティエラの自室まで挨拶に来る。一緒に彼女の住む小城の入り口まで歩いた。入り口の外にある大きな柱の前で、彼は立ち止まった。


「見送りは、ここまでで良い」


 彼にそう言われ、ティエラは少し寂しい気持ちになる。

 騎士達は、城門の前に集合しているらしい。


「あんたが見送りに来たら、騎士達の士気も上がるだろうが……。俺はあんまり、あんたを騎士らに見せたくない」


 ソルの意図がよく分からなかったが、ティエラは彼の言う通りにすることにした。


 結局昨日は、ソルが部屋から立ち去った後もなかなか寝付けなかった。寝れなかった分、苦手な裁縫をして過ごした。なかなかうまくいかず、左手は傷だらけだ。以前、多少の傷は解放していた方が良いので、何か布で覆ったりはせずに、洗浄してそのままにしていた。


 突然、ソルに左手首を掴まれた。


「目蓋が腫れてる。それに左手、傷が増えてるな」


 彼は、自分のことをよく見てくれているなと、感心してしまう。それと同時に、ティエラは頬が熱くなるのを感じた。


「あんたのことだから、ルーナへの贈り物だって、手巾か何かに刺繍とかしてるんだろ? 集中するのも良いが、ちゃんとよく寝ろよ」


 ソルの言ったことは、大体当たっている。もちろんルーナへの贈り物も作っていた。だけど、今日夜更かしをしたのは――。


「それも、もちろんあるけど……ソルに……」


 ティエラは言い淀む。

 きょとんとした様子で、ソルは彼女に問いかけた。 


「なんだよ?」


 彼の様子をうかがった後、ティエラは自身の胸元に右手を入れ、探り始めた。

 ソルが驚いて、声を上げる。


「おい、周りに人はいないが、外でそういうことをするのはやめろ」


 彼女達から離れた場所に、見張りの騎士が立ってはいる。だが、ティエラ達はちょうど柱の影にいるので、気付かれてはいないはずだ。


「今日のドレスには、他にしまう場所がついてなくって……」


 それを聞いて、ソルは溜め息をついた。


「本当、俺はあんたを置いていくのが心配でたまらないよ……」


 ティエラは、彼に心配をかけてしまったようで、少しだけ反省した。

 そうして、目当てのものを取り出した。

 ティエラの手の平におさまるほどの大きさのそれを、彼に差し出した。


「これを……」


 小さな袋だった。

 不器用なので、縫い目の間隔等もでたらめだ。決して上手いとは言えないが、一応――。


「御守りか?」


 訝しげな表情をしているが、ソルは気づいてくれたようだ。ティエラの掌から、袋を受け取ってしげしげと眺めている。


「相変わらず、下手だな」


 そう言われて、ティエラは落ち込む。

 やはり、渡さない方が良かっただろうか。

 ティエラの左手首から、ソルの手がはずれる。

 しゅんとした彼女に、彼は声をかけた。


「前より上手くなったな。ありがとう、大事にする」


 そう言って、ソルはティエラの頭に掌を置いた。彼は彼女に微笑みかけている。

 ソルは、時々こうやってティエラを労ってくれた。


 しばらく彼に、頭を撫でてもらう機会も減るだろう。


 いつも一緒に過ごしていた彼が、本当に今から戦地へと向かってしまう。


 考えていたら、ティエラの瞳から涙が出始める。


「心配しなさんな、必ず帰ってくるよ」


 ソルはそう言うが、ティエラはまた泣いてしまった。

 どうしたら、涙が止まるのかが分からない。


「ルーナはお前のそばに残るんだし、そんなに不安がるなよ」


 ソルがティエラを見て、再びため息をついた。

 何度安心するような声を掛けても泣いてしまうティエラに、いよいよ彼は愛想をつかしたのだろうか。


「ああ、あんたの誕生日、祝えなさそうなのは悪かったな」

 

 ソルは、ティエラから貰った御守りを懐にしまう。その後、彼は自身の首に掛かっているペンダントに手を伸ばした。留め具を外す音がする。



「ほら、これ渡しとくから。だから、泣き止めよ」



 ソルがそう言って、ティエラにペンダントを差し出して来た。

 彼女はそれを見て逡巡してしまう。


「このペンダント、誰かからの贈り物じゃなかったの?」


「は? 誰が俺に渡してくるんだよ?」


「その……女の人とか……」


 ソルが朝から何度目かの、ため息をつく。


「自分で買ったんだよ……。色々説明するのは面倒だから、しない」


 気にはなったが、それ以上質問するのはやめることにした。


「必要ないなら、渡さないけど」


 ソルに言われて、ティエラは慌てる。


「……欲しい」


 彼女が両手を差し出すと、ソルがその上にペンダントを置いた。銀の鎖で出来た、目立った装飾などはないデザインだ。小さな石か宝石がはめられそうな飾りはあるが、今は何も嵌まってはいない。

 ティエラは彼に微笑み返した。

 そうして、彼女はさっそく自分の首に着けようと、留め具を持って手を回した。

 しかし、不器用だからか、うまく装着することが出来ない。


「何やってんだよ……」


「ソル、着けてくれる?」


 彼に再度ペンダントを返すと、ティエラの首に手を回す。彼の指先が首筋に触れて、くすぐったい。留め具をつけた後に、彼の手は離れた。

 ティエラは、ソルに声を掛ける。


「このペンダントを、貴方だと思って大事にするわ」


 そう言うと、少しだけソルが固まった。

 よく見ると、彼の耳が赤いのに気づく。


「そうか。じゃあ、俺もこの御守りをあんただと思って大事にするよ」


 彼に言われて、ティエラは心がなんだか、むずむずした。嬉しいような、恥ずかしいような。ソルも、そんな気持ちだったのだろうか?


「そろそろ時間だな」


 もっと一緒に居たかったが、仕方がない。

 ソルの碧の瞳が、ティエラの金の瞳を捉える。 



「離れていても、心はいつもあんたと共にある。俺は、絶対にあんたのところに帰ってくる。約束だ」


 

 ティエラは静かに頷く。

 一度だけ彼に寄り添った後、離れた。

  


 小城の門からソルが出ていき、彼の背が見えなくなるまで、ティエラは彼をずっと見つめていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ