【正史】半月は華に何を想う
ティエラが本編で旅をしていた時に、仲間になったセリニ・セレーネの話になります。
興味のない方は飛ばしてもらっても大丈夫です(^^)
「セリニ、お主、戦に駆り出されたのは本当かえ?」
セリニは、ウルブの都に戻っていた。
この都は、彼の尊敬する大公が統治している場所だ。
セリニに問いを投げ掛けたのは、大公の妻フロースだった。
二人は、ウルブの城の客間にて会話を楽しんでいた。
彼女のことを、セリニは子どもの頃からよく知っていた。フロースの出身である侯爵家は、セリニの出身である家と懇意にしている。そのため、昔からよく遊んでいた。
フロースとセリニはほぼ同い年だ。彼は幼馴染みの彼女を姉や妹のように慕っている。彼女の独特な話し方は、彼の話し方に少なからず影響を与えていた。
「そうです、フロース様」
セリニは淡々とした話口調で返す。彼は平坦な話し方が特徴だ。銀の髪に、紅い瞳をしている。
あまり話すのが得意ではない彼だが、フロースは昔から彼によく声をかけてくれている。
「まあ、お主は玉の一族の加護も受けているし、そこまでは心配しておらんのだがの……。お主が怪我などないように祈っている」
そう言って彼女は目を伏せる。
いつもは髪を結い上げている彼女だが、今日は髪を下ろしている。波打つような黒髪は、部屋の灯りに照らされて、妖艶さを増していた。
彼女は、幼少期より美しいと周囲から評判だった。
「ノワのバカは、どうしておるのか?」
言い方はきついところがあるが、彼女はとても心優しい女性だ。フロースなりに、ノワに対して、気を遣っている。
セリニの従兄弟であるノワ・セレーネは、祝いの場でセリニとフロースが会話をしている際に、彼女と出会った。その際、ノワはフロースに一目惚れしたようだ。
彼女もノワも結婚しているが、ノワはまだどこかフロースへの気持ちを捨てきれていない節がある。
セリニはノワに関し、そのことも気にならないでもないが、それ以上に気になっていることがある。
「ノワは、最近は、よく酒ばかり飲んで過ごしているようです。執務に今のところは影響は出ておりませんが……」
「そうか……。あれは、心が優しく弱いところがある。陰口を叩く貴族達の意見全てを真に受けているようでは、自身を追い詰めるだけなのだが……。線引きが出来ぬのだろうな。『狐』もそうじゃが……」
『狐』とは、セリニのもう一人の従兄弟ルーナ・セレーネのことだ。彼は王女であるティエラ姫と婚約している。ルーナは、十離れた婚約者に心酔に近い想いを抱いている。
だが、少しだけ大人の女性に近付いてきているティエラ姫は、彼の振る舞い、女性を代表とした他者との距離感などに疑問を感じている節がある。
端から見ると、二人の考えにズレがあるのがよく分かる。だが、ルーナ本人は気付いていないようだ。彼なりに、とてもティエラ姫を大事にしている。だが、根本的なところをルーナ本人が理解できていない。
誰も彼本人に指摘しない。
セリニは、幼少期のルーナへの大人達への対応に関して、見て見ぬふりをしてきた。そんな自分に、ルーナの振る舞いをどうこういう資格はないと思う。それとなく伝えるに留まってしまっている。
「セリニの従兄弟どもは、不器用な者ばかりだな」
フロースはセリニにそう告げた。
従兄弟どもの中には自分も含まれているのだろう。
セリニは、フロースに対して微笑を浮かべた。
彼女も彼に対し、微笑みを浮かべてくる。
(今も昔も変わらない対応、それに関係というのも悪くはない)
セリニはそう考えた。
しばらく彼らが話し込んでいると、客間の扉を叩く音がした。
「プラティエス様」
入ってきた身長の高い男に向かって、フロースは声をかけた。彼女の声には、華のような愛らしさが含まれていた。
「フロース、セリニと会話がだいぶ弾んでたみたいだな」
プラティエスがフロースに微笑みかける。
世間の言葉を借りるなら、美男美女で絵になる二人と言ったところだろう。
彼女のプラティエスに向ける笑顔は、セリニに向けるものに比べると、とても艶やかだ。
そんな彼女の姿を見ると、自分の知らない彼女のように錯覚さえ覚えてしまう。
良い意味でも悪い意味でも、セリニとフロースの関係性は変わっていない。
きっとこれからも変化することはない。
セリニは少しだけ物悲しさを覚えながら、自身の師と幼馴染みの姿を見守ったのだった。
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