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記憶喪失の癒し姫と白金の教育係と紅髪の護衛騎士  作者: おうぎまちこ
過去編

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【正史】0-18 大地達の思惑




「スフェラ公国には、我々オルビスのように、独自の神器は存在しなかったはずだ。だからこそ、神器の使い手が本来の力を発揮さえすれば、戦に負けることはない」


 国王は、執務室の窓から外の景色を見ていた。夜空を眺めながら、弟プラティエスに対して語り掛ける。

 国王の亜麻色の長い髪は、月の光に照らされて、瞳と同じよう金色のようにも見える。

 弟プラティエスは、兄の言葉を受けて答えを返す。


「剣の坊主が、本来の力を発揮できればだがな」


 国王は、弟の顔をちらりと見た。

 プラティエスの言う『剣の坊主』とは、新たに剣の守護者となったソル・ソラーレの事だ。彼には幼いことから、国王の娘ティエラの護衛にあたってもらっていた。

 弟の言葉を聞いた後、国王はまた窓の外へと視線を移した。


「そこが、やはり一番の問題かな……」


 剣の神器。その力の本領を発揮するために必要なもの。それが、まだ若いソルには足りない。

 周囲の者も皆、それを承知で彼を送る必要があった。


「子ども頼みの戦争ってのも、怖いもんだな。まあ、魔術師はわりと育ってきてるような気もするんだが」


 プラティエスの発言に対し、国王はゆっくりと返答した。


「そこは、おいおい対策を考えていかないといけないだろうね。だけど、今回は、ソルに頑張ってもらわないといけない」


 そう言って、王は目を瞑った。




※※※


 


 ティエラは、窓辺に立ち、夜空を眺めていた。

 ここ数日、なかなか夜眠ることが出来ない。

 ソルが戦地に向かうことばかりが、彼女の頭をよぎる。


(いよいよ明日、ソルは城を発ってしまう……)


 以前は、あんなにも毎日一緒に過ごしていた幼馴染の彼は、最近は戦の準備で忙しいと言い、ティエラの部屋に滞在する時間がめっきり減ってしまっている。

 元々、城自体は宝玉によって守護されている。そして、ティエラの部屋の前にも、常時二名の見張りの騎士が存在する。それでも万が一に備えて、彼女の父である国王陛下が命令し、ソルが彼女のそばで過ごしていた。

 最近は、ソルの代わりに、ルーナがティエラのそばに訪問してくれる回数が増えてはいる。


 ルーナが来てくれること自体はとても嬉しい。


 それでも、胸にぽっかり穴が開いたような、この気持ちは何なのだろうか。


 今はまだ、ソルは彼女の部屋に顔を出してくれている。でも、明日、彼が城を発てば、しばらく顔を合わせることもない。

 早ければ、それこそ戦は数日で終わるらしいが、長いとどの程度かかるか分からないという話だった。


 姫として国の行く末はもちろん気になる。だけど、まだ十二のティエラには、やはり幼馴染がどこかに行ってしまうということへの不安が大きかった。

 戦の勝敗はともかく、神器の加護を受けているソルが死ぬことはないと、周囲からは言われている。だけど、万が一のこともある。



 未来がどうなるかなど、誰にも分からないのだから。



(結局、うまく完成させることは出来なかったわね……)


 不器用ながらも、なんとか毎日おこなっていた刺繍のことを、ティエラは思い出していた。

 途中の布は、今は机の上に置いている。


(本当は、あれは……)


 そう考えていると、扉を叩く音が聴こえた。

 

 もう夜だ。

 おそらくこの時間に尋ねてくる人物は、ティエラには一人しかいない。


(ルーナ、お仕事が終わって、今日も会いに来てくれたのかしら。いつもより遅いから、来ないと思っていたわ……)


 ティエラは自身の婚約者だろうと思い、扉に近づいた。

 最近の彼は、仕事が終わると極力ティエラの元に来てくれる。ソルの事で不安定になっているティエラに対して、ルーナなりに気を遣ってくれているのだろう。

 取っ手に手をやる前に、自分が寝間着の状態だとに気づいた。薄手の素材で出来た、肩口のないワンピースだ。一度、ルーナからも指摘を受けている。このままの格好で彼の前に出るのは良くないと思い、手近にあった紫色のショールを羽織る。


「こんばんは、今日も来てくれたの――?」


 そう言って、ティエラが迎えた先に立っていたのは――。



「ティエラ」



 ――最近なかなか一緒にいることが出来なかった、彼女の護衛騎士ソルの姿だった。



「あんたに、話があって来た」






いつもお読みくださって、誠にありがとうございます。

次回1~2話ぐらいで、本編にもつながるシーンになると思います。

引き続き、お読みくだされば幸いです。

お時間がおありの方は、☆評価や、新作&続編『蒼星のセレス』もお読みいただけたら、作者は喜びます。

下記にリンクがございますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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